2014 Fiscal Year Annual Research Report
精密観測時代における宇宙論的揺らぎの非線形性解析手法の確立
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14J03409
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Research Institution | Tokyo Institute of Technology |
Principal Investigator |
成子 篤 東京工業大学, 理工学研究科, 特別研究員(PD)
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Project Period (FY) |
2014-04-25 – 2017-03-31
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Keywords | 宇宙マイクロ波背景輻射 / インフレーション |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度はまず、PLANCK 衛星によって観測された宇宙マイクロ波背景輻射 (CMB) の温度揺らぎの非線形性 (非ガウス性) に対し、理論的に予想される非線形性を定量的に明らかにするために、宇宙マイクロ波背景輻射の温度揺らぎが従う基礎方程式である、 (非線形) ボルツマン方程式を解くための新しい手法の開発を行った。PLANCK 衛星によって観測された温度揺らぎの非線形性 (非ガウス性) から、最終散乱面からの光子の伝搬過程において生成される非線形性を上記の方程式に基づいて正確に引き抜くことにより、始原密度揺らぎの非線形性が明らかになり、それは宇宙初期の貴重な情報となる。それゆえ、光子の伝搬において生成される非線形性を定量的に明らかにすることは、至極重要である。 次に、通常仮定されるCMBの温度揺らぎの統計的等方性に対し、その破れを予言するインフレーションモデル、非等方インフレーションモデルにおける宇宙論的揺らぎの解析を行った。詳細な解析の結果、インフレーション中のド・ジッター時空からのずれの効果により、温度揺らぎの統計的非等方性の理論的予言は既存のものから変更を受けることがわかった。 加えて、温度揺らぎの統計的非等方性はインフレーション中の時空の対称性、特に空間回転に対する対称性の破れと結びついていることが分かった。現在の統計的非等方性の観測的制限をもとに、インフレーション期における時空の空間回転対称性の破れに対し、初めて理論的制限を与えた。 また、非等方インフレーションにおいて生成された宇宙論的揺らぎがその後どのように発展していくか、一様非等方時空における宇宙論的揺らぎの振る舞いについて、揺らぎの線形理論に立ち戻り調べた。その結果、揺らぎの基礎方程式と背景時空の方程式の類似性を見いだし、背景時空の発展が分かれば揺らぎの進化も理解できることを見いだした。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
一様非等方時空における宇宙論的な長波長揺らぎの関する研究を進めていく中で、非等方インフレーションモデルにおける揺らぎの統計的非等方性の理論予言を修正する必要があることに気づいた。本年はその解析を集中的に行ったため、当初予定していた計画を変更し研究を進めた。当初の研究計画の内容についても、おおむね順調に進んでいる。 一方、宇宙マイクロ波背景輻射の温度揺らぎの非線形性解析に関する研究については、数値計算の困難を劇的に軽減する手法が見つかり、その開発に精力的に取り組んだ。次年度以降に計画していた研究を前倒しで進める形になり、当初の計画を変更し研究を進めた。
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Strategy for Future Research Activity |
まず、一様であるが非等方的な時空における宇宙論的な長波長揺らぎに関する研究を継続して進める。特に、非線形領域も含めた揺らぎの解析手法の開発を進める。また、得られた手法をもとに宇宙論的揺らぎの統計的非等方性の解析を進め、既存の結果との比較等を行う。特に、初年度に得られた結果を考慮して、ド・シッター時空からのずれの影響が宇宙論的揺らぎの統計的非等方性にどのように影響を与えるか、という点に注目して解析を進める。 次に、宇宙マイクロ波背景輻射の温度揺らぎの非線形性の解析について、初年度に得られた手法、「Curve-of-sight formulae」を用いて数値解析を進める。最終散乱面からの光子の伝搬過程において生成される温度揺らぎの非線形性を完全に明らかにすることを目指す。また、上記の手法を宇宙マイクロ波背景輻射の偏光にも応用し、宇宙マイクロ波背景輻射の温度揺らぎや偏光が従う非線形ボルツマン方程式を、統一的にうまく取り扱うための手法の開発にも取り組む。 インフレーションなどにより作られた宇宙論的揺らぎは、その後重力の効果で発展し、銀河や銀河団など宇宙の構造を形成する。それゆえ、理論予言と観測とを比較するためには、銀河や銀河団などの (個数) 密度揺らぎを求める必要がある。銀河の密度揺らぎに対し理論的予言を与えるための手法として、標準的な摂動論に基づく手法の他に、Effective Field Theory 手法が近年注目を浴びている。両者の手法を詳しく調べ、銀河の密度揺らぎの二点相関関数や高次相関関数、特に soft limit と呼ばれる極限に注目し、明確な理論予言を与えることができないか調べる。また、それらにおける一般相対論的な重力の効果の影響や、その観測可能性についても研究を進める。
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Research Products
(11 results)