2015 Fiscal Year Annual Research Report
精密観測時代における宇宙論的揺らぎの非線形性解析手法の確立
Project/Area Number |
14J03409
|
Research Institution | Tokyo Institute of Technology |
Principal Investigator |
成子 篤 東京工業大学, 大学院理工学研究科, 特別研究員(PD)
|
Project Period (FY) |
2014-04-25 – 2017-03-31
|
Keywords | 修正重力理論 / 離形変換 / 宇宙マイクロ波背景輻射 / 非ガウス性 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度はまず、修正重力理論に対する空間勾配展開法の応用を念頭に、修正重力理論の性質を明らかにする研究を行った。修正重力理論の代表格である f(R) 重力理論 (R はリッチスカラーを表す) は、共形変換と呼ばれる計量の変換を行うことにより、Einstein 重力とスカラー場の系に書き換えることができる。一方で近年、離形変換と呼ばれる計量の変換が、重力理論の間の関係を結びつける新しい変換として注目を浴びている。そこでこの離形変換のもとでの観測量や理論の作用・諸性質の変換性を明らかにする研究を行った。また、f(R) 重力理論の拡張として R の微分を含んだ理論、「重力的スカラー・テンソル理論」の提案を行い、それらと既存のスカラー・テンソル理論との関係を明らかにした。
加えて本年は、PLANCK 衛星で観測された宇宙マイクロ波背景輻射の温度揺らぎの非線形性 (非ガウス性) に関する研究も行った。現在までに観測された温度ゆらぎの非ガウス性の起源としては、光子が重力ポテンシャル中を伝搬することによりその軌道がずれる効果、いわゆる Lensing 効果に起因するものとされている。ところが、これらの効果に起因する非ガウス性の評価は、光子の温度揺らぎの発展を支配する Boltzmann 方程式を正確に解いて得られたものではなく、別の方法を用いて与えられたにすぎない。そこで本年は、初年度に開発を行った Boltzmann 方程式を解くための新しい手法を用いて、この評価法の妥当性の検証を行った。加えて、これまで評価されてこなかった、非ガウス性の起源となりうるその他の様々な非線形効果についても、系統的に定量評価を与えた。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度は、当初の計画にある通り、修正重力理論に対する空間勾配展開法の応用を念頭に、修正重力理論の性質を明らかにする研究を行った。その結果、近年注目されている離形変換がどのような変換であるか、観測量や理論の作用・諸性質の変換性を調べることにより、その性質が明らかになった。
また、宇宙マイクロ波背景輻射の温度揺らぎの非線形性解析に関する研究については、初年度に見つかった数値計算の困難を劇的に軽減する手法を用いて、系統的に種々の非線形効果の定量的評価を行った。加えて、これまで非線形効果の解析に用いられてきた手法について、Boltzmann 方程式に基づく結果と比較することにより、その解析手法の正当性を示すことができた。それゆえ、当初の研究計画の内容に従って、研究はおおむね順調に進んだと言える
|
Strategy for Future Research Activity |
本年は、昨年度までに得た研究結果をもとに、修正重力理論に対する空間勾配展開法の適用を吟味する。まずは、重力場とスカラー場の運動方程式が二階微分方程式となる一般的なスカラー・テンソル理論、Horndeski 理論に注目して研究を進める。この理論の特徴の一つとして、スカラー場と重力場の運動項の間の結合が挙げられる。興味深いことに、このような結合が存在すると、宇宙膨張に際して宇宙の非等方性が増大する可能性がある。通常インフレーション宇宙で仮定されるように、宇宙の空間的一様性を仮定すると、空間勾配展開法を適用することができ、その手法を用いて非摂動的に宇宙の非等方性の発展を追いかけることが可能となる。もし非等方性が増大するのであれば、インフレーションを引き起こすためには、通常課される宇宙の一様性に加え、宇宙の等方性をも仮定する必要がある。しかしながら、宇宙初期にそのような極めて特殊な初期条件をもった宇宙が実現される可能性は極めて低いと考えられるため、あるクラスのホルンデスキー理論に対して制限を与えられる可能性がある。
加えて本年は、宇宙マイクロ波背景輻射 (CMB) の温度揺らぎ、またはその偏光の非線形性の解析に関する研究も進める。初年度に得られた CMB の温度ゆらぎに対する「Curve-of-sight」 アプローチを、CMB の偏光に拡張し、偏光に対する「Curve-of-sight 公式」の導出を検討する。光子の偏光を扱うには、偏光を記述するテンソル量に対する Boltzmann 方程式を解く必要があるが、まずはそれらテンソル型方程式をうまく取り扱うための手法を編み出し、光子の偏光に対する「Curve-of-sight 公式」の導出を行う。それが済めが、得られた公式に基づいて、偏光の非線形効果の定量的評価を行う。
|
Research Products
(11 results)