2014 Fiscal Year Annual Research Report
近世後期・近代移行期の再生産システムに関する比較/歴史社会学的研究
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14J03542
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Research Institution | Kobe University |
Principal Investigator |
中島 満大 神戸大学, 人文学研究科, 特別研究員(PD)
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Project Period (FY) |
2014-04-25 – 2017-03-31
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Keywords | 地域性 / 結婚 / 離婚 / 歴史人口学 / 歴史社会学 / 足入れ婚 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は、研究計画のとおり、(1)『野母村絵踏帳』のデータ分析、(2)長崎県長崎市野母町でのインタビュー調査、(3)徳川人口データベースのアーカイブ化を実施した。 (1)『野母村絵踏帳』のデータ分析に関して、本年度は、近代移行期における結婚年齢と離婚の地域的多様性とその変容について、考察を行った。東北村落の先行研究と野母村の分析結果を重ね合わせることで、徳川-明治期における結婚年齢の地域性(西高東低パターン)―東へ行くほど結婚年齢が高くなり、西へ行くほど結婚年齢が低くなる傾向、離婚の地域性(東高西低パターン)―東へ行くほど離婚の割合が高くなり、西へ行くほど離婚の割合が低くなる傾向を抽出した。さらにこうした地域性が、「持続」しているだけでなく、「変容」をしている側面については、野母村における結婚形態の変化(「第1子の誕生を契機とし、それと同時に夫婦としての登録を行う」形態から、「先に夫婦として登録を行ったあとで、第1子をもうける」形態への移行)との関連性を指摘した。導き出された「変容」は、東北村落の変化とも照らし合わせると、人口や家族の領域における「地域性の縮減」「標準化」として捉えることができるのではないかという提案を行った。 (2)長崎県長崎市野母町でのインタビュー調査に関しては、野母町だけでなく、隣接する脇岬、高浜まで範囲を拡げ、若者宿、ヨバイなどの習俗や、結婚についての「スソイレ」「アシフミ」などの慣行について、聞き取り調査を行った。特に「スソイレ」や「アシフミ」といった結婚慣行は、『野母村絵踏帳』の分析結果とも整合性が高かった。 (3)徳川人口データベースのアーカイブ化に関しては、徳川人口データベースの整備や移管、管理システムの構築を行い、今後の利用に向けて、適宜更新を行った。データベースの管理体制が徐々に整備されつつあり、比較研究への土台を固めることができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度の研究の実施に関しては、研究計画と照らし合わせても、おおむね順調に進展していると言える。そしてその研究内容(近代移行期における結婚年齢と離婚の地域性について)を、学会報告や論文として発表することができた。研究の成果として、先行研究では別々に考察されていた結婚年齢の地域性と離婚の地域性を、西南海村という地点で接合し、結婚形態と離婚行動が密接に関連していることを示すことができ、歴史人口学に新たな分析枠組みを提示したと言えるだろう。 次に『野母村絵踏帳』を基礎とした歴史人口学的/歴史社会学的分析から出発し、戦前の統計などを使用しながら、現場における聞き取り調査との接合可能性を探ることにより、本年度は地域性の「変容」だけでなく「持続」の側面にも光を当てることができ、順調に研究が展開している。また歴史人口学的分析や統計地図の作成、そして聞き取り調査を組み合わせることで長期にわたって人口と家族、再生産システムを追跡することができた。加えて方法論をミックスすることで、より複眼的に現象を捉えることが可能となった。したがって、方法論の面でも本年度は新たな地平を切り開くことができたという点で、本研究の達成度は高まっている。 また次年度以降の研究計画の基盤となる徳川人口データベースの整備や比較対象地域の選定などについても本年度は行うことができた。特に比較対象地域の選定は、今後の研究の発展や展開に大きく影響する点であり、その準備が本年度できたことは大きな達成であると言える。
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Strategy for Future Research Activity |
本年度は、計画の中心となる『野母村絵踏帳』の分析及び野母町(長崎県長崎市野母町)とその周辺地域における聞き取り調査を行った。それを踏まえて、次年度以降は、野母村との比較を行うために、同時代の他の村落について調査・分析を実施することを予定している。その候補としては、野母と同じく西南日本村落である天草地方の高浜村、羽州村山郡山口村に絞り、選定を進めていく。 天草高浜村の分析を行う目的としては、「西南日本型」と生業との関係を分離していく点にある。野母村は、漁業を生業とする村落であり、かつ西南日本村落である。現在、そこから「西南日本型」の類型が立てられており、他の類型(「東北日本型」「中央日本型」)は農村を軸として立てられているため、生業の影響を明確にする必要がある。高浜村を分析することで、生業の影響を明確化し、「西南日本型」の性質をより鮮明に抽出することができるだろう。 山口村の分析は、本年度の結婚年齢と離婚の地域性の「変容」をさらに進展させることができる。その叙述を東北の側から詳細に描くためには山口村の分析が必要となる。また野母村の婚外子の分析は、他の村落との比較という視点を加えられていなかった。山口村にも数は少ないものの、婚外子が存在しており、野母村との比較を行うことにより、婚外子のライフコースの地域性を探求することが可能となる。 また本年度は、日本におけるデータベースの整備を行ったが、今後は海外ではどのように歴史人口学のデータベースが構築、運営、管理されているのかを調べ、比較研究だけでなく、日本における管理体制へ応用できる部分がないかを精査したい。 また新たな歴史史料(村明細帳や過去帳など)の発掘にも力を入れたい。宗門改帳だけでなく、その他の史料や文献から、本研究の分析結果を改めて考察し、その整合性や矛盾点を明らかにし、今後の研究の展開に活かしていきたいと考えている。
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