2014 Fiscal Year Annual Research Report
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14J03547
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Research Institution | The Toyo Bunko |
Principal Investigator |
阿部 由美子 公益財団法人東洋文庫, 研究部, 特別研究員(PD)
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Project Period (FY) |
2014-04-25 – 2017-03-31
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Keywords | 中国近代史 / 満洲族 / 旗人 / 民族 / 清朝 / 中華民国 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は中国近代史における旗人から満洲族誕生の過程を解明することを目的としている。これは清代の、ツングース系満洲人を核としながらも多くのエスニックグループによって構成された多民族社会組織である八旗に所属していた旗人が、清朝崩壊を経て満洲族としての自己意識を形成していく過程でもある。この目的を達成するために中華民国時期の旗人をとりまく政治的、社会的状況を明らかにしつつ、旗人社会の崩壊と自己意識形成について分析する。本研究では清朝政府と中華民国政府によって締結された清室優待条件(清皇族待遇条件と満蒙回蔵待遇条件を含む)により辛亥革命後の1912年以降も存続した八旗が、1924年の北京政変による優待条件修正と1928年の北京政府滅亡にともなう八旗廃止を契機として、清代と民国期の旗人社会の連続性が断絶したととらえ、同時期の新聞、雑誌、旗人の著作などを資料として満洲族誕生の過程を解明する。 上記の目的達成のため、本研究では特に清朝及び中華民国北京政府の首都である北京と、清朝発祥の地である満洲という2つの満洲族集住地域を主なフィールドとして設定し調査を行う。 平成26年度には北京で調査を行い、清末から民国時期の新聞、雑誌資料を収集した。調査の結果、同時期の北京の庶民(旗人を多く含む)を読者層とする白話報に掲載されていた旗人関連報道を多数収集することができた。また、若手研究者による研究会「順天時報の会」に参加して、北京で発行された日本資本新聞『順天時報』について調査し、北京のメディアを通じて当時の北京旗人社会の実態を解明すると同時に、当時の北京メディア界に関する知見を深めることができた。新聞資料から得られた成果を平成26年7月に中国蘭州市で開催された国際学会「第六届晩清史研究国際学術研討会」で「晩清北京的学堂総弁和白話報―以宗室女教育家継識一和葆淑舫郡主為例」として発表した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究では前述のように満洲族の集住地域である北京及び満洲地域をフィールドとして設定して調査を行う予定である。 平成26年度は北京の研究機関を訪問して清末から民国時期の新聞、雑誌資料の調査を行った。また、所属機関である東洋文庫所蔵の清末民国期の新聞、雑誌資料も調査することができ、同時期の資料収集は順調に進んでいる。特に東洋文庫所蔵の清末民国時期の北京の日本資本新聞『順天時報』は、近年若手研究者による研究会「順天時報の会」が立ち上がり、筆者もその調査研究活動に参加する過程で、同時期の北京の政治、社会状況やメディア界の様相などで知見を広げることができ、大いに収穫を得た。同紙は従来の研究では、日本帝国主義の御用新聞や、保守的論調の新聞であるとされて十分な研究がされていなかったが、同紙は北京の旗人や清室に関する報道が豊富であり、筆者が対象とするである旗人社会の研究にとって非常に有用である。 平成27年度は北京での調査を継続するとともに、満洲地域の瀋陽、吉林などで資料収集を行う予定である。これにより北京と満洲地域のネットワークのつながりや、共通点、相違点などを明確にして、旗人社会の実態、旗人から満洲族誕生への過程などについてよりマクロ的に解明することができる。 平成26年度は、多くの資料収集を行うことができ、得られた資料の分析も進めている。初年次の達成度としては、おおむね順調に進展している。
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Strategy for Future Research Activity |
今後の研究では当初の計画に従い、北京と満洲地域の旗人/満洲族社会のネットワーク解明のために、フィールド調査を行う予定である。平成26年度までに北京での調査は順調に進めることができた。平成27年度は満洲地域での調査を本格的に進める。まずは清朝の副都がおかれ現在も満洲族が多く居住する瀋陽で新聞、雑誌などの資料調査と現地の満洲族への聞き取り調査を行う予定である。新聞雑誌資料としては、清末民国時期の瀋陽で発行されていた庶民が読者層である白話報や、北京の『順天時報』と姉妹紙であった日本資本の『盛京時報』に着目して調査、分析を行いたい。 清末から民国時期の旗人社会の崩壊については、従来の研究では北京など個別の都市を対象とするものはあったが、複数都市や広域にわたる研究はされてこなかった。本研究は北京を中心とする華北地域と満洲地域の歴史的な関係性に着目し、旗人/満洲族の集住地域であり、旗地経済が存在するなどの共通点を背景に旗人/満洲族のネットワークが存在していたという仮定のもとに旗人社会の連続性と崩壊、変質とその政治的、社会的要因を分析しつつ旗人から満洲族誕生の過程を明らかにする。 また、近年欧米の研究者によるニューチンヒストリー(新清史)が中国に紹介され、清朝の満洲民族王朝的性質を強調する欧米の研究者と、清朝の中華王朝的性質を強調する中国及び台湾の研究者との間で大きな論争となった。ニューチンヒストリーをめぐる欧米と中国、台湾の研究者の論争は満洲人と漢人の満漢問題というエスニック的、ナショナリズム的諸問題をめぐる論争であり、筆者も日本の研究者としてこの論争で自己の論点を明確にして研究発表を行いたい。そのために欧米の研究機関を訪問して、現地の機関が所有する資料を収集したり、研究者と交流、議論を通じて欧米の学術界の研究動向を吸収し、その研究手法を導入したい。
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Research Products
(2 results)