2015 Fiscal Year Annual Research Report
観測と化学反応シミュレーションによる星間空間のグリシンとその前駆体の研究
Project/Area Number |
14J03618
|
Research Institution | The Graduate University for Advanced Studies |
Principal Investigator |
鈴木 大輝 総合研究大学院大学, 物理科学研究科, 特別研究員(DC1)
|
Project Period (FY) |
2014-04-25 – 2017-03-31
|
Keywords | 星間化学 / アストロバイオロジー |
Outline of Annual Research Achievements |
初期地球上には彗星や塵によって宇宙から大量の有機分子が持ち込まれ、それらの化学進化の結果生命が誕生した可能性がある。星間空間では多様な分子が発見されており、近年、もっとも簡単なアミノ酸“グリシン”の初検出が期待される。グリシンに至るまでの化学進化はあまり研究されておらず、その前駆体と予想されている分子の観測例も非常に少ない。そこで当研究では昨年度までにグリシンの前駆体と考えられるCH2NH(メチレンイミン)に着目し、昨年度には電波望遠鏡を用いた探査を行いCH2NHを8天体で検出することに成功した。一方、CH2NHの形成経路は明らかになっていなかったので、今年度は化学反応ネットワークシミュレーションてCH2NHの主要な生成経路を考察した。 当研究では、NAUTILUSと呼ばれるコードを用いて気相と固相それぞれの化学反応と分子の吸着・蒸発量を時間ステップごとに計算した。この計算にあたり、星形成領域の進化は低温(~10K)なコアが重力収縮したのちに、星が誕生して温度が上昇するモデルを用いた。化学反応はkida.uva.2014のデータセットをベースにして過去の先行研究で議論されてきたようなCH2NHの生成反応を取り入れた。 シミュレーションを行った結果、気相のCH2NHは星が誕生し温度が上がった直後には水素に対して10の-6乗という高い相対存在量に達し、その後減少していく傾向が見られた。このモデルを用いて、CH2NHの生成源として考えられる全ての反応を定量的に比較することを通じて"NH + CH3 → CH2NH + H"というラジカル同士の反応が最も重要であることを示した。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
グリシン前駆体と考えられるCH2NHの形成経路を明らかにすることでグリシンに関する化学反応の理解の一部を深めることができた。同時にCH2NHの化学反応を検証するためにシミュレーションの研究に着手し、3年時にシミュレーションの研究を行う準備を整えることができた。さらに、今後シミュレーションの妥当性を検証するために不可欠な実際の星間空間における有機分子の存在量に関するデータを、電波望遠鏡による観測を通じて取得することができている。
|
Strategy for Future Research Activity |
来年度にはこのモデルをさらに発展させ、グリシンを含んだ化学反応ネットワークシミュレーションを構築する。先行研究であるGarrod (2013)ではシミュレーションを用いて星間空間でグリシンがどのくらい生成するかが議論されているが、グリシンのような大型分子は実験的に反応のレートが議論されていないなど多くの不定性を含んでいるといえる。そこで現在用いているシミュレーションにGarrod (2013)で扱われたグリシンとその関連分子の反応を組み込み、グリシンを含んだ化学反応全体をより深く理解するためにどこがキーになっているかを明らかにする。また、電波望遠鏡でどのような観測データをあつめればよいか、分光実験や反応係数の実験的・理論的予測において重要なものを提案することで星間空間でのグリシンの化学反応全体の理解を促進したい。
|
Research Products
(5 results)