2015 Fiscal Year Annual Research Report
マイスター・エックハルトの人間理解-純然たる無である被造物と「何故なき生」
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14J03669
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Research Institution | Waseda University |
Principal Investigator |
西村 雄太 早稲田大学, 文学学術院, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2014-04-25 – 2017-03-31
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Keywords | エックハルト / ディートリヒ / スコラ学 / 西洋中世思想 / 知性論 / 中世ドイツ |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、マイスター・エックハルト(1260頃-1328)の知性理解を当時の思想史的文脈を踏まえたうえで検討することによって、「何故なき生」や「純然たる無である被造物」といった彼のドイツ語著作における独自の人間理解の内実を明らかにしようとする試みである。前年度は、エックハルトの知性理解に大きな影響を与えたと考えられるフライベルクのディートリヒ(1240頃-1320頃)の知性論を一般的に検討し、ディートリヒの知性理解が、魂の能力として知性を理解するトマス・アクィナス的な理解とは一線を画していることを確認した。 本年度は、こうしたディートリヒ独自の知性論の核心に、自然的枠組み(時間と空間)において存在している事物と、認識に関わるものとして魂の内に存在しているものとを峻別しようとする意図があることを指摘し、さらに、ディートリヒのこのような両者の峻別がエックハルトにおいても見受けられるという事実について、エックハルト『パリ問題集』における特殊な「存在」理解を詳細に検討することで明らかにした。 これらの研究を通じて、知性はそれ自体として捉えられる限りにおいて、一切の時間的・空間的規定を欠いており、その本性において神の全き像(imago)として理解されるものなのだ、というエックハルト独自の知性理解が明らかとなった。ドイツ語説教でエックハルトがしばしば語る「魂における神の誕生」の教説の根本にも、このような彼独自の、しかしながらスコラ学的伝統にも根付いている知性理解が存在する。つまり、この教説は何らかの神秘的体験に基づいて説かれているわけではないのである。それゆえ、本年度の研究は、「神秘主義者」という従来エックハルトに冠せられてきたレッテルが誤解を招くものであることを明確に示した点で、大きな意義を持つものであると言えるであろう。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度は、10月5日よりドイツ・フライブルク大学において、著名なエックハルト研究者の一人であるMarkus Enders教授のもとで在外研究を行い、最新の研究状況についての情報や各種資料の収集に努めた。12月4日には教授が主催するコロキウムでディートリヒについて発表する機会を得ることができた。また、3月18-20日にはドイツ・ハンブルクで開催されたエックハルト学会に参加し、最新の研究状況について知見を得ることができた。 本年度の研究成果については、在外研究の影響により論文投稿の時期が遅れた結果、本年度中の公開はかなわなかったが、エックハルトについての論文が日本宗教学会『宗教研究』387号(2016年12月発行)に掲載されることが確定している。
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Strategy for Future Research Activity |
本年度の研究により、エックハルトの理解の上でディートリヒの思想の理解が必要不可欠であることがより明白になった。また、在外研究を通じて、エックハルト研究が最も盛んなドイツにおいても、エックハルト理解におけるディートリヒの重要性については、一部の研究者を除いてはいまだ十分に認知されていない状況が明らかとなった。最終年度は、エックハルトが、ディートリヒの知性論をどのように変容させることで彼独自の人間理解の内に取り込んだのかを明らかにすることで、本研究を完成させることを目指す。
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Research Products
(2 results)