2015 Fiscal Year Annual Research Report
隠蔽的な砂中間隙環境における種分化に関する研究:節足動物門貝形虫綱をモデルとして
Project/Area Number |
14J03700
|
Research Institution | Hiroshima University |
Principal Investigator |
田中 隼人 広島大学, 生物圏科学研究科, 特別研究員(PD)
|
Project Period (FY) |
2014-04-25 – 2017-03-31
|
Keywords | 自然史科学 / 分子系統学 / 形態進化 / 分散障壁 / 国際情報交換・韓国 / 国際情報交換・ベトナム |
Outline of Annual Research Achievements |
砂浜海岸における調査は,国内では瀬戸内海各地,長崎県(壱岐島,五島列島),沖縄県(伊江島)で実施した.調査航海では,ウミホタル目貝形虫類について,27未記載種と日本初報告2属を含む16属36種を発見した.この結果を本目の分類学的研究を促進し種多様性解明の一助とするべく,ウミホタル目について属レベルでの検索図を作成・発表した.瀬戸内海の広島県・四十島から得られた間隙性貝形虫類の1未記載種を記載した.これまで本種の属するポリコピッサ属は,太平洋と大西洋の中緯度地域にあるアンキアライン洞窟と砂中間隙環境からのみ発見されていた.本属の分散能力と歴史生物地理から,瀬戸内海産の種はテチス海遺存種であると判断された.本論文では,体長0.3 mmの個体から外骨格を残したままDNAを抽出し,パラタイプ標本のmtCO1領域の塩基配列を決定しDNAバーコードとして登録した.昨年度採集したベトナム産間隙性貝形虫の1未記載種を記載した.これは東南アジア初の報告であり,本地域での種多様性の把握が非常に遅れていることが示された.世界中で潮間帯間隙からのみ発見されていたマイクロロクソコンカ属とパルボシセレ属を瀬戸内海の浅海底より初めて発見した.本発見により,従来考えられてきた砂浜間の分散経路の他に,間隙性貝形虫の生息に適した浅海底を介した分布拡大の可能性が示された. パラポリコープ属間隙性貝形虫類の種分化に特に関わっているとされている上唇について,外部形態を詳細に観察し,相同と考えられる部位のマッピングを行った.形態形質に基づく分岐図と核18Sに基づく分子系統解析の結果から,上唇の形態的類似性が系統関係を強く反映することが示された.現在は,蛍光免疫染色による神経系の解析から上唇の具体的な機能の特定に取り組んでいる. 以上の研究結果の一部については,エストニアで開催された国際会議や国内の学会で公表した.
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
国内外の砂中間隙環境から未記載の貝形虫類を多数発見し,種多様性把握の第一段階として種の記載を行った.航海調査によって間隙性種が浅海底に生息していることを明らかにし,これまで砂浜間で想定されてきた分散経路とは別の浅海底を介した分布拡大の可能性を示すことができた.種分化に深く関連していると考えられる雄の交尾器や上唇については,上唇の形態を詳細に観察し相同とみられるパーツを識別することに成功した.その結果を分子系統樹と形態形質による分岐図と比較することで上唇の形態的類似性が系統関係を強く反映することを示すことができた.一方で,蛍光免疫染色等を用いた内部構造の把握や細胞レベルの研究では,これまで良い成果は得られていない.
|
Strategy for Future Research Activity |
砂浜海岸や航海による浅・深海底からの標本採集を継続して行う.また今年度は,未だ良い結果が得られていない蛍光免疫染色法に注力し,間隙性貝形虫類の雄の交尾器や上唇の神経・筋肉配置を明らかにし,種分化において重要な役割を果たす要素の特定を試みる.
|
Research Products
(9 results)