2014 Fiscal Year Annual Research Report
沈み込み帯における水循環およびスラブ内地震の発生メカニズムの解明
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14J03815
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
椎名 高裕 東北大学, 理学研究科, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2014-04-25 – 2016-03-31
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Keywords | 沈み込み帯 / 海洋性地殻 / スラブ内地震 / 水循環 / ガイド波 / 地震波速度 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は,沈み込む太平洋スラブ最上部に存在する海洋性地殻の地震波速度構造を推定し,海洋性地殻周辺での地震発生や沈み込み帯における水循環やスラブ内地震の発生メカニズムを理解することを目的とする. そこで本研究ではまず,太平洋スラブ内で発生した地震の観測波形記録を精査し,海洋性地殻内部を伝播した後続波の観測の有無を調べ,東北日本弧全体で複数の後続波の同定と分類を行った. 観測された後続波のうち,日高山脈西部で観測された北海道東部下のスラブ内地震で確認された後続波は,読み取った,あるいは理論的に期待される初動P波やS波の数秒後に大きな振幅を持つ.そこで,本研究ではこの後続波の伝播過程や発生要因を,数値シミュレーションなどにより検討した.その結果,この後続波が海洋性地殻内部を伝播したガイド波(トラップ波)と解釈できることがわかった. 次いで本研究では,この解釈に基づきガイド波の走時を用いて,北海道東部下に沈み込む海洋性地殻の地震波速度の推定を行った.解析の結果,深さ約40-100 kmの範囲で海洋性地殻のP波およびS波速度を得,特に深さ70-80 km以浅の海洋性地殻では岩石学的な実験などから期待される速度より10-15%程度遅いことが明瞭に示された.このことは,この深さ範囲で,北海道東部下においても,海洋性地殻内部で含水鉱物とともに流体の水が共存していることを示唆していると考えられる.また,海洋性地殻内での地震波速度の増加と地震活動の活発化する深さにはよい対応関係が見られることから,北海道東部下でも含水鉱物の脱水により生じた水が地殻内地震活動に寄与していると考えられる.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究では,東北日本弧で観測された地震波形を精査し,特に北海道東部下のスラブ内地震で観測された後続波の伝播過程や発生要因を数値シミュレーションなどにより検討した.この結果,この後続波が海洋性地殻内部をP波あるいはS波として伝播するガイド波(トラップ波)と解釈できることを示した. さらに,本研究では,この解釈に基づいたガイド波の解析への適用することにより,大きな目的の一つである海洋性地殻の詳細な地震波速度分布の推定を行い,北海道東部下の深さ約40-100 kmにおける海洋性地殻のP波およびS波速度を得た.本研究で得られた結果は,特に深さ70-80 km以浅において,海洋性地殻の地震波速度が岩石学的な実験などから期待される速度より10-15%程度遅いことを明瞭に示している.これらの成果は,東北地方と同様に,北海道東部下においても深さ80 km以浅の海洋性地殻内部には1 vol%程度の流体が存在することを示すものである.加えて,地殻内部での地震活動とのよい対応が見られることは,地殻内地震の発生に,含水鉱物の脱水により生じた水が深く関わっているという考えを改めてサポートしている. このように,本研究では北海道東部下に沈み込む海洋性地殻の詳細な地震波速度を推定することで,太平洋スラブ最上部付近における水の存在を明らかにすることができた.加えて,ガイド波の伝播経路の検討を行った際,日高山脈直下のマントルウェッジに存在する地震波の低速度域が大きな役割を果たしていることを示した.この成果は北海道のテクトニクスに関する理解を進展させると期待される.また,これらの解析を行うために,波線追跡など,解析プログラムの高度化を行った. 以上のことから,本研究は期待以上の成果が得られていると考えられる.
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Strategy for Future Research Activity |
これまでの研究により,東北日本弧下では深さ約100 km程度まで地震波の遅い海洋性地殻が存在し,かつ,深さ70-80 km以浅では含水鉱物とともに流体の水が地殻内で共存している可能性が高いことが明らかになった. 一方で,今後,沈み込み帯の水循環やスラブ内地震の発生メカニズムを理解する上で,スラブマントルにおける含水鉱物の分布や脱水の進行,および脱水により生じた水がその後どのように移動しているかを明らかにすることが重要になると考えられる. これまで蓄積した観測波形記録に対する知見から,地震波形のそのものに地下の不均質構造に対応した特徴が含まれている可能性が高いことがわかっている.そこで,本研究では今後,観測波形が持つ特徴に注目した解析を行うことで,太平洋スラブマントルや海洋性地殻に関する更なる情報の抽出を試みる. 具体的には,波形が持つ振幅の卓越性や分散性などを用いて,海洋性地殻(正確には太平洋スラブ最上部において特に地震波速度が遅い層)の厚さやスラブマントル内の不均質構造の推定を行う.そして,特に深さ70-100 km以浅において含水鉱物の脱水により生じた水がどのような分布し,あるいは移動しているのか,その理解を深めることを目指す. また,西南日本やカスカディアなど,東北日本弧以外の沈み込み帯で得られている知見などを含め,沈み込み帯における地震活動と沈み込むスラブ内部の不均質構造や水の関わりについて考察する.
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Research Products
(5 results)