2015 Fiscal Year Annual Research Report
炭質物の結晶構造進化: 炭素による地殻ダイナミクスの解明
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14J03941
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Research Institution | Niigata University |
Principal Investigator |
中村 佳博 新潟大学, 自然科学系, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2014-04-25 – 2017-03-31
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Keywords | 炭質物 / グラファイト / 反応速度論 / 高温高圧実験 / TEM / micro-Raman spectroscopy / XRD |
Outline of Annual Research Achievements |
研究目的: プレート収束帯に対応する具体的な温度圧力条件にて炭質物の結晶構造がどのように変化していくかを天然と実験スケールから定量的に説明することを目標に、野外調査と室内実験をおこなった。
研究実施計画: 2年目の研究実施状況として、本年度は前年度に引き続き(1) 出発試料である四万十付加体中炭質物の分析と野外調査、(2)博士研究として始めている高温高圧下でのグラファイトの合成実験の2点を主軸に研究を継続して行ってきた.(1) 四万十付加体中の炭質物の研究では、昨年度までの野外調査と非晶質な炭質物の分析法確立を基に,特に顕微ラマン分光・顕微FTIR分析を詳細に行った.顕微ラマン分光分析では,イライト結晶度との比較や顕微FTIR分析との比較も行うことで熟成初期における炭質物の結晶構造進化の解明をおこなった。(2) 高温高圧実験では、これまでに合成実験を行なった試料の各種分析と、圧力依存性を検証するための追加実験をおこなった。これまでに合成した試料に関しては、TEMでの微細構造観察と分析結果を利用したカイネティックモデルの改良を特に注力しておこなっている。TEM観察では、非晶質な指紋状組織を示す出発物質が系統的にグラファイト構造へ変化するプロセスを観察した。また前年度に試みた従来のカイネティックモデルでは、正確に反応速度定数と反応次数を決定して活性化エネルギーを見積もることができなかった。この問題を解決するために3つのことなる反応速度モデルを利用して活性化エネルギーの見積もりを検討した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
これまでの2年間に及ぶ研究によって、1GPaにおける炭質物がグラファイトへ構造変化する際の活性化エネルギーが258~339 kJ/molであることを高温高圧実験における反応速度実験より算出することに成功した。この活性化エネルギーは従来よりも1/3も小さい活性化エネルギーであり、地殻内部における炭質物の結晶構造進化はより早い反応速度にて進行していることを明らかにした。これは従来の活性化エネルギーでは成し得なかった地質学的温度 (300-800℃)と時間 (数万年~数百万年)にてグラファイトを合成できることを予測している。 地質学的スケールでグラファイトが合成可能かどうかを評価するために実験結果に基づく温度-時間-圧力依存性の関係式を求め、それぞれの定数を実験より決定した。この式を利用し、1GPa下における1Ma (100万年)の被熱時間でグラファイトへ結晶構造変化した場合に、変成温度がどれだけ必要かのモデル計算を試みた。この結果、約520~720 ℃の変成温度があればグラファイトを合成できることを発見した。つまり我々の活性化エネルギーと温度ー圧力ー時間依存式を利用することで、従来成し得なかった温度圧力条件にてグラファイトが合成可能であることを証明した。またこの結果は沈み込んだ炭質物が地殻中にてより早い反応でグラファイトへ変化していることを示唆している。この式と実験結果を利用することで、様々な変成帯や付加体における炭質物の結晶構造を実験からのモデリングと比較していくことが今後の課題である。
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Strategy for Future Research Activity |
これまでの2年間で上記の問題に特に着目し、最も単純な系で温度-速度-圧力依存性を決定した.実験結果より圧力を補正して石墨化プロセスを低温へ外挿すると,日高変成帯では約400℃/2.5kbarにて420 kJ/molの活性化エネルギーが見積もられた。この値は従来に比べて非常に低い活性化エネルギーである。しかし天然の結晶構造進化から逆算された理想的な活性化エネルギーは約250 kJ/molであり,170 kJ/molもの大きな活性化エネルギーの隔たりがある。これは率にして約40 %もの活性化エネルギーが他の要素によって低下していることを示唆している。つまり我々の博士研究のみで天然の結晶構造進化を完全に説明することができない。これは、炭質物の結晶構造進化の要因の一部のみで外挿した結果であると推測される。つまり実際のプロセスはより複雑な要素(変形・流体活動・触媒)の影響を受けていると示唆できる。 このような問題を解決するために、より詳細な野外調査と天然における炭質物の結晶構造の変化を捉え、実験により外挿した任意の温度圧力条件下での天然・実験データの比較が必須である。この比較を様々な地域にて行い、その差分が一体なにの影響によって引き起こしされているのかを明らかにする。そしてその影響を実験からもう一度定量化することによってより天然の結晶構造進化へ近づけていくというプロセスを繰り返す必要がでてきた。 この問題は、実験を行い天然試料との比較が行えるようになって初めて明らかになったことである。今後の研究方策としてこの問題を最優先に取り組んでいきたい。
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Research Products
(5 results)