2014 Fiscal Year Annual Research Report
後期ハイデガーの思惟の解明-「否定的なもの」という概念に定位して
Project/Area Number |
14J04084
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
木元 裕亮 東京大学, 総合文化研究科, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2014-04-25 – 2016-03-31
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Keywords | ハイデガー / フロイト / 否定性 / 精神分析 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、マルティン・ハイデガーのいわゆる後期哲学の成立過程を、「否定的なもの」ないし「否定性」という契機、すなわち、人間性における分裂に注目しつつ、主にドイツ哲学の伝統との関わりに即して読解し検討することである。そのことで難解といわれる後期ハイデガーの哲学、そのいわゆる「存在の思惟」のいわば「最小構成」のようなものを明らかにできるのではないかと考えている。結局、ハイデガーのいう「存在」とは何かということが問題である。 本年度の成果として挙げる事ができるのは、20年代末から30年代初頭におけるハイデガーのカントおよびヘーゲルとの関わりに一定の見通しをつけることができたことである。この点はハイデガーはカントとの関わりにおいて自らの「存在の問い」をカントの超越論的な問いに重ね合わせ、その果てに見出された「否定」の契機をさらにヘーゲルの「否定性」との関わりにおいて追求したと簡単にまとめることができる。 また、本年度は「否定性」をより多面的に考察するため、この点について独自の立場を形成しているジークムント・フロイトの精神分析的諸著作の読解にも取り組んだ。フロイトには「エスと超自我」「生の欲動と死の欲動」といった人間性における分裂、すなわち、「否定性」についての独特の把握が存在する。総括的に述べるとすれば、ハイデガーには「否定性」の契機を何がしか哲学の可能条件のようなものとして特権化する思考が見られるように思われるが、他方のフロイトはむしろ人間性における分裂を弱めることをその実践の目的としていたように見える。もちろん、両者が見ていた事態を「否定性」として一括して安易に重ね合わせるのは危険だが、以上の把握を通じて「否定性」という問題意識そのものを相対化する視座を得ることができたと考えている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
当初の計画、つまり、ハイデガー研究に関しては特に問題なく進展していることに加えて、フロイトの視点を加味することで当初の問題意識全体を相対化する視点が獲得できたことは研究全体の進展にとって重要な出来事だったと考えられるため。
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Strategy for Future Research Activity |
計画に従い、続いてシェリングやニーチェとの関わりに注目しつつ、いわゆるハイデガーの後期哲学の成立の場所とみられている『哲学への寄与』とその周辺テキストの検討にまで進みたいと考えている。その際には彼の「形而上学」の概念に改めて注目してみたい。 ハイデガーのいわゆる「存在」とは、世界が意味的に経験されることをそもそも可能にするようなもっとも根源的な意味であり、まずもって「存在者を存在者として」開示することを可能にし、そうすることで続いて「何かが何かとして」現れることを基づけているような、そのような何かである。「として」は意味的な経験を名指している。 ハイデガーの把握に従えば、伝統的な西洋哲学は「形而上学」として特徴付けられるが、それは西洋哲学の本流が感性的な存在者から出発して、意味的-概念的次元へと遡行し、さらに最終的には「存在」に到達することで、「存在者」を「存在」に根拠づけることを目指すという共通の形式を持っていたということを意味する。かくしてハイデガーはプラトンには「現象・イデア・善のイデア」といった道行き、そしてカントには「感性的経験・カテゴリー・統覚の統一」といった道行きを見出すのである。 ハイデガーに言わせると、この「形而上学」はかくして存在と存在者との存在論的差異を前提にし、その中を動くのだが、ハイデガーが自身の思惟の課題として対置するのは、存在と存在者との差異そのものを思考することである。こうしてハイデガーは「形而上学」としての西洋哲学の伝統を乗り越えたと考えるわけだが、このハイデガーの哲学理解がどれほど妥当であるのかを検討しなければならないと考えている。
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Research Products
(3 results)