2015 Fiscal Year Annual Research Report
伝統木造住宅の構法仕様の地域性を反映可能な力学モデルの構築
Project/Area Number |
14J04161
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
南部 恭広 京都大学, 工学研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2014-04-25 – 2017-03-31
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Keywords | 伝統木造住宅 / 五條新町 / 耐震性能評価 / 降伏ベースシア係数 / 間口 / 蟻害 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は,主に下記の研究を行なった。 1.通常よりせいが高い垂壁(大垂壁)付き架構に着目した研究として、実験変数を柱寸法や開口の有無、試験体幅やスパン数とした、大垂壁付き架構の静的加力実験を取り纏めた論文が『日本建築学会技術報告集』(全文査読論文)に掲載された。本研究により,架構の仕様の違いが,復元力特性や垂壁および軸組の損傷状況,破壊機構に影響を及ぼすことを明らかにした。 2.構造的特徴の地域性に関する研究として、重要伝統的建造物群保存地区である奈良県五條市五條新町の現地調査の結果を取り纏めた論文が『日本建築学会構造工学論文集』(全文査読論文)に掲載された。なお、本論文の最後に、住宅の耐力や重量について、比較対象地域をさらに2地域(五條新町・長野県奈良井)加えた地域性の検討を行っている。本研究により、得られた主な知見を以下に示す。(1)五條新町の伝統木造住宅は住宅の奥行に比して間口が広く、他地域と比較しても間口が広い。(2)耐震性能評価の結果、間口方向の降伏ベースシア係数が0.1を下回り、耐震性能に著しく乏しい住宅が少なからず存在する。(3)さらに、その主要因は間口の広さにあり、間口が広くなっても間口方向に主要な耐力要素である全面土壁が多くはならず、耐力が小さくなる傾向にあるためである。※なお、主に蟻害と災害履歴に関する書籍を科研費により購入させて頂いた。 3.構造的特徴の地域性に関する研究として、壁土に着目した検討を行った。本研究では、京都市深草の荒壁土・中塗土の粒度試験およびシリンダー圧縮試験を行い、本実験の範囲では荒壁土は粒度がやや小さめであったが、圧縮強度は中塗土で大きくなる傾向が確認された。さらに、長野県白馬村と石川県加賀東谷の壁土の粒度試験を行い、加賀東谷の壁土の粒度が白馬村より小さいことを確認した。※なお、変位計や粒度試験の外注に科研費を使用させて頂いた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
2015年度は、主に、奈良県五條市五條新町の伝統木造住宅群に対して実施した現地調査の結果に基づき住宅の耐震性能評価を行い、伝統木造住宅の構造的特徴を明らかとした。さらに、住宅の耐震性能評価結果だけでなく、住宅の劣化状況や住民・大工へのヒアリング調査も取り纏め、「奈良県五條新町における伝統木造住宅の現地調査と耐震性能評価」と題した全286頁の調査報告書を執筆し、住民や五條市役所に配布するなどのアウトリーチ活動も行った。なお、調査報告書は所属研究室のホームページでも公開している。 さらに,2編の審査付学術論文を投稿し(そのうち主著者として1編),2編の審査付国際会議論文(そのうち主著者として1編)を投稿予定であるなど,研究成果の発表も着実に行っている。さらに、現在、本年度に投稿する論文の準備も行っている。 以上のように、研究テーマである伝統木造住宅の構法仕様の地域性を反映可能な力学モデルの構築に向けて着実に研究を進捗させている。
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Strategy for Future Research Activity |
2016年度は、まず、重要伝統的建造物群保存地区である三重県亀山市関町(関宿)の伝統木造住宅群に対して実施した現地調査の結果に基づき住宅の耐震性能評価を行い、伝統木造住宅の構造的特徴を明らかにする。 さらに、修士課程で行っていた、全8地域を対象とする構造特性値(伝統木造住宅の構造的な特徴を表す評価指標で、高さや重量、柱本数、固有振動数、降伏ベースシア係数などを定義している)を用いた伝統木造住宅の構造的特徴の比較検討を更に進展させ、2015年度に取りまとめた五條新町と2016年度に取りまとめる予定の関宿および美々津の調査結果を加えて、全11地域を対象とした地域性の分析を行う。 また、これまでの研究成果を公表するため、主に論文投稿および国際会議の参加に科研費の使用を考えている。まず、関宿の調査結果を取り纏め『日本建築学会技術報告集』(全文審査論文)に投稿することを目指す(現在、執筆中)。また、国際会議には8月開催のWCTE(オーストリア)および翌年1月開催のWCEE(チリ)に参加する予定である。 最後に、現地調査と耐震性能評価を行うことで構造的特徴を明らかにした和歌山県有田郡湯浅町・奈良県五條市五條新町・三重県亀山市関町に関する研究成果と、全11地域を対象とした構造的特徴の地域性分析の研究成果、さらに、伝統木造住宅の構造的特徴を有する軸組架構に対する静的加力実験を通して簡易な力学モデルを構築し、実験のシミュレーション解析を通して構造的特徴の地域性を踏まえた耐震性能評価を試みた京都府与謝郡伊根町に関する研究成果をまとめることで、博士論文を執筆する。
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Remarks |
奈良県五條市五條新町で実施した現地調査の結果を取り纏めて調査報告書を執筆し、林研究室のホームページ上に掲載した。
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Research Products
(13 results)