2015 Fiscal Year Annual Research Report
現代アメリカ先住民文学における土地と環境正義に関する研究
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14J04465
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Research Institution | Hiroshima University |
Principal Investigator |
黒住 奏 広島大学, 文学研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2014-04-25 – 2017-03-31
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Keywords | 国際学会 / 研究発表 / 国際情報交換(アメリカ合衆国) |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度はニューメキシコ州ラグーナプエブロ族出身であるLeslie Marmon SilkoのAlmanac of the Deadを中心に研究を進めた。彼女の代表作である本作品は、アメリカ大陸における植民地主義の歴史と、土地を追われたアメリカ先住民たちの土地奪還の予言を描いた長編小説である。アメリカにおける資本主義や植民地主義の発展の歴史と、「写真術」の発展の密接な関係に着目し、本作品を通して多く描かれる「写真」および「映像」が表象するものを読み解くことで、植民地主義や資本主義といった問題を提示する本作品において、「写真」や「映像」というヴィジュアルイメージが、どのような役割持つかを考察してきた。さらに、写真とランドスケープのつながりに焦点を当てることで、土地の略奪や、土地の汚染といった環境不正義の問題提示におけるヴィジュアルイメージの役割を論考した。2016年2月にニューメキシコ州アルバカーキで開催された37th Annual Southwest Popular/American Culture Association (SWPACA)で 本研究を発表した。 また本研究に非常に関わりの深いアメリカ南西部ニューメキシコ州およびアリゾナ州を訪れ、現地調査を行った。図書館やアメリカ先住民関連施設で、文献調査や資料収集を行った。さらに研究対象である作品の舞台であるプエブロインディアンの居留地や町、そして研究テーマに関連する土地を訪れリサーチを行った。さらに、環境不正義問題の活動家であるアコマプエブロ族のPettuche Gilbert氏を訪問し、インタビューを行なった。現代アメリカ先住民文学作品の中でも代表的な作家Simon J. Ortiz氏に面会し、本年度(平成28年度)の研究の中心となる同氏の作品群についてお話を伺い、研究を進める上で非常に有意義な意見をいただいた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究の目的は、アメリカ先住民の作家の作品を取り上げ、環境正義の観点から読み解く事にある。本研究では、環境文学としての現代アメリカ先住民文学の研究を発展させ、作品における環境観を再定義し、さらに環境正義論を展開することで、アメリカ先住民文学で描かれる土地の侵略、強制移住、同化政策といった植民地主義の問題や、ダム建設、ウラン鉱山採掘、核実験などの環境問題などのテーマに着目し、それらの社会問題と環境問題が、アメリカ先住民の社会においていかに絡んでいるかを環境正義の視点から考察し論じることで、アメリカ先住民文学の特質と有効性を明らかにしていくことであり、その点においては計画通りに達成できている。2月にニューメキシコ州で開催された国際学会で研究発表を行なったことは、計画していた以上の成果であるといえる。また学術誌にも論文を一本投稿した。さらに、現地調査において28年度の研究対象である作品の作家本人に会いインタビューができたことは、予想以上の進展であり、今年度の研究につながる土台を得る事ができた。以上のことを省みると当初の予定からは対象作品などにおいて多少なり変更はあったが研究課題の達成はおおむね順調に進展していると言える。
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Strategy for Future Research Activity |
本年度では、現代アメリカ先住民文学作品の中でも、特にアメリカ南西部ニューメキシコ州のプエブロ出身作家の作品群を中心に、アメリカ先住民文学における環境正義問題を研究していく。昨年度はラグーナプエブロ族の作家Leslie Marmon Silkoの長編である『Almanac of the Dead (死者の暦)』を中心にSilkoの文学作品の研究を進めた。本作品に描かれる武器や麻薬の密売、殺人、誘拐、貧困、腐敗政治、環境破壊といった暴力と犯罪に溢れたディストピア的世界を、アメリカ先住民の環境観や環境正義の視点から考察した。本年度は、Silkoの作品群に加え、ニューメキシコ州アコマプエブロ作家のSimon J. Ortizの作品を中心に研究をすすめる。Simon J. OrtizはMomadayやSilkoと並ぶ現代先住民文学を代表する重要な作家の一人である。ウラニウム鉱山におけるアメリカ先住民や労働者の闘いと先住民の抵抗の歴史を結びつけた、彼の代表作品である 『ファイトバック』や、アメリカ先住民をアメリカ社会の底辺へと押しやってきた社会システムの不公平や欺瞞を暴きだす他の作品群を考察することで、環境正義の文学作品としての現代アメリカ先住民文学の有効性を明らかにする。 また、昨年度の後半に進めた研究をまとめたものを6月11日に広島で行なわれる中四国アメリカ文学会で発表をし、7月に国際学術誌『Journal of Literature and Art』に投稿する予定である。Ortiz作品群の研究は2月にニューメキシコ州アルバカーキで行なわれるSouthwest Popular/American Culture Associationの学会で発表をする予定である。その際に再びSimon J. Ortiz氏を訪ねインタビューを行い、アコマプエブロの土地も訪れ現地調査も実施する予定である。
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Research Products
(2 results)