2014 Fiscal Year Annual Research Report
インドネシアにおけるイスラームと多元的法制度-スマトラ島ミナンカバウ社会の民族誌
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14J04551
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
西川 慧 東北大学, 文学研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2014-04-25 – 2017-03-31
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Keywords | インドネシア / 西スマトラ / イスラーム法廷 / 慣習法 / 村落形成史 |
Outline of Annual Research Achievements |
インドネシア共和国西スマトラ州の州都パダンで、ミナンカバウ社会全体の慣習法を取り仕切る慣習法評議会の役員に対してインタビューを行った。その結果、行政単位としての西スマトラ州を「ミナンカバウ特別州」として改編することで慣習法を活性化させる計画があることが分かった。 西スマトラ州内のパシシル・スラタン県S村でのフィールドワークを行った。S村では、まず口承史の収集を行った。その結果、土地財産が形成される過程に関するデータを収集することができた。このようなデータは先行研究で示されたことはなく、ミナンカバウの土地財産の性質を考える上で貴重な資料である。 次に、村役場で行政資料の収集を行った。その結果、S村は2012年に7つの行政村に分割されたこと、行政村の長は選挙によって選出されていること、母系リネージ長が行政村長になるという事態はS村において見られないことが明らかになった。一方で、村落の分割にも関わらず、リネージ長から構成されるS村の評議会が、依然として行政村から独立した形で機能していることが明らかになった。 10世帯を対象として親族関係と土地相続に関する調査を行った。親族関係に関する調査からは、母系クランが単位となって集落が形成されていること、約8世代前の祖先がS村の開祖に当たること、それ以前の系譜について人びとが認知していないことが明らかになった。土地相続に関する調査からは、換金作物の農地が母から娘へ相続されていることが分かった。現金収入につながりにくい水田については、住居から土地までの距離が近い場合は依然として母から娘へ相続されて耕作されているのに対し、距離が遠い場合は耕作が放棄される場合があることが明らかになった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初から予定していた、村役場と大学での行政資料の収集、行政村落と母系リネージの関係についての聞き取り調査、リネージの共有地の管理と相続に関する聞き取り調査を終えることができた。これらは昨年度の計画通りである。 一方で、調査ビザの発行の遅れにより、調査出発の時期が当初予定していた9月から11月へと2か月遅れてしまった。このため当初予定していた、行政村落内の全世帯を対象とした親族関係に関する聞き取り調査を完了させることができなかった。ただし、この調査は今年度の裁判所における調査と同時進行で行うことができるため、大きな問題にはならないと考えられる。さらに、アダットを取り仕切る評議会員へのインタビュー、村の口承史といった当初に予定していた以上のデータを得ることができた。よって、本研究はおおむね順調に進展していると評価できる。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は、当初の予定通りにイスラーム裁判所および地方裁判所での調査を行う。この調査と同時進行で、昨年度終えることができなかった調査村落の親族関係に関する聞き取り調査を行う予定である。
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