2015 Fiscal Year Annual Research Report
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14J04693
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
松尾 拓紀 東京大学, 工学系研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2014-04-25 – 2017-03-31
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Keywords | 強誘電体 / 薄膜 / 光起電力 / 欠陥制御 / 酸素空孔 / ショットキー接合 / キャパシタ / switchable-diode effect |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は,BiFeO3(BFO)強誘電体薄膜の光起電力特性の向上に向けた,格子欠陥制御指針の構築を目指した.BFO薄膜内部の酸素空孔分布が分極特性やリーク電流特性,光起電力特性に及ぼす効果を検証した. Pulsed-laser deposition (PLD)法により,SrTiO3(STO)(100)単結晶基板上に,SrRuO3(SRO)/BFO/SRO/STOエピタキシャル薄膜キャパシタを作製した.製膜後の電気的な処理によって,SRO/BFO下部電極界面近傍に,酸素空孔が高濃度に堆積した欠陥層を含む試料と,欠陥層を含まない試料とを作製した. 欠陥層を含む試料,含まない試料の何れにおいても,強誘電性に由来する分極反転が確認された.リーク電流特性においては,何れの試料も分極反転に伴って,電気伝導の整流方向がスイッチングするSwitchable-diode effectを示した.これらの実験の中で,欠陥層を含む試料が,分極がキャパシタの面直方向に対して下を向く状態において,特異的に高いリーク電流示すことを見出した.さらにこの状態では,光照射下において,他の状態に比べて約10倍程度の大きな短絡電流を示すことが明らかとなった. これらの現象はSRO/BFOのショットキー接合によって形成される内蔵電位,空乏層幅が,強誘電性に由来する分極電荷と酸素空孔の電荷とにより非対称に変調されることに起因することが,実験および密度汎関数理論計算によって明らかとなった. 本年度の研究により,格子欠陥構造とBFOの分極構造とを制御し,これらの効果を重畳させることで,BFOキャパシタにおける光起電力特性が大幅に増強することが示された.この成果は他の強誘電体材料系へも適用可能であると考えられ,強誘電体キャパシタの光電変換デバイスへの応用に大きく寄与すると考えられる.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
本年度はBFO強誘電体薄膜キャパシタにおいて,BFO内の欠陥構造が分極特性や光起電力特性に及ぼす影響の解明に取り組んだ.実験および理論の両側面からのアプローチにより,光起電力発現のメカニズムを明らかにし,BFO内の酸素空孔分布と分極構造の制御が特性に大きな影響を与えることを示した.とりわけ,酸素空孔の欠陥層を有するBFO薄膜キャパシタにおいて,分極と酸素空孔とが重畳的にバンド構造を変調することで,大幅に光起電力が増強することを明らかにした点は,BFOキャパシタの,新規な光電変換デバイスへの応用の可能性を拡げる成果と位置づけられる. また,本年度の研究においては,光起電力特性以外に関しても成果が得られた.BFOキャパシタにおいて,電気伝導の整流特性が,BFOの分極反転に伴ってスイッチングするSwitchable-diode effectは,抵抗変化型の不揮発性メモリへの応用が期待されている.しかしながら,そのメカニズムに関しては,これまでBFOの伝導タイプや,電子状態について十分に考慮されずに議論がなされてきた.本研究においては,実験および密度汎関数理論による計算に基づき,これまで不明確なままであった,これらの点を明らかにした.これにより,より信頼性の高いバンド構造に基づいた特性発現メカニズムの議論が可能になり,分極や酸素空孔,ドーパントが特性に及ぼす影響についても,系統的な理解ができるようになった. 上記のように,本年度の研究成果により,光起電力特性をはじめとする諸特性と,分極,欠陥構造、電子状態との関係性が明確になり,種々の特性の更なる向上に対して有用な知見が多く得られた.以上から,本年度の研究が,当初の計画以上の進展をみせたと考えられる.
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Strategy for Future Research Activity |
本年度の研究においては,BFOキャパシタの面直方向に発生する光起電力が,SRO電極とBFO界面近傍での,分極や酸素空孔の欠陥層によるバンド構造の変調効果に起因するものであることを示した.その結果,SRO/BFO界面由来の光起電力効果における,特性向上に向けた材料設計指針が得られた. 一方,強誘電体では電極/強誘電体界面の光起電力効果のほかに,強誘電体内部(ドメイン内部およびドメイン壁)においても光起電力が生じることが知られている.この強誘電体内部における光起電力効果では,材料のバンドギャップを超える開放電圧が生じることが報告されており,新たな原理に基づく光電変換材料として期待が持たれているが,特性向上に向けた物性制御の指針が未だに確立されていない.本研究では今後,強誘電体の分極構造および電子状態制御に基づいた,強誘電体内部における光起電力効果の増強に向けた物性制御指針の構築に取り組む.研究対象物質としては,これまでと同様に強誘電体の中では比較的バンドギャップの小さなBFOを選択する. 具体的には,シングルドメイン,およびマルチドメイン構造を有するエピタキシャルBFO薄膜,および一部のFeをMnに置換したMn-doped BFO(BFMO)のエピタキシャル薄膜をPLD法によって作製する.ドメイン構造の決定は,X線回折法および圧電応答顕微鏡法によって行なう.得られた薄膜に対して,光照射下における電流-電圧特性や,入射光の偏光角に対する短絡電流の依存性を調査することで,Mnドーピングの効果および,ドメイン内部とドメイン壁からの寄与の大きさを明らかにする.また,密度汎関数理論計算によって得られたBFMOにおける電子状態と,実験によって得られる光起電力特性とを比較することで,実験と理論の両面から,Mnドープによる電子状態の変化が光起電力特性に及ぼす効果について解明する予定である.
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