2014 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
14J04824
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Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
岸本 宜久 北海道大学, 文学研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2014-04-25 – 2017-03-31
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Keywords | 言語学 / アイヌ語 / 述部複合 |
Outline of Annual Research Achievements |
アイヌ語沙流方言の補助動詞構文における述部の複合制約を指摘し、これに関連して口頭発表を2件おこなった。アイヌ語の補助動詞構文「V1+接続助詞wa+V2」は日本語のテ形補助動詞構文と類似する点があるが、形態的、統語的にはアイヌ語の補助動詞構文とは異なる点が多い。決着留保を表すテミル構文(「~てみる」)は、アイヌ語でも「見る」を意味する語がV2に立って補助動詞としてふるまうのであるが、アイヌ語で「見る」にあたる動詞には自動詞inkarと他動詞nukarの両形式がある。しかし、テミル構文が成立する場合は自動詞inkarがV2に立つことから、アイヌ語の補助動詞構文にはV1とV2のあいだに自他に関わる複合制約があると考えられる(V2が他動詞の構文もある)。アイヌ語沙流方言の公刊資料の分析を通じ、V1とV2の照応する名詞項が同定される条件下で、V2の結合価に対してV1の結合価が等しいか多くない限りは、V2は独立的に名詞項と結びつくために補助動詞構文としての緊密性を失って二つの節に解釈されると考えられ、アイヌ語では複合制約が生じると考察・指摘した。補助動詞構文にみられる複合制約は、アイヌ語の動詞形式の複合プロセスにおける制約の問題と関連する。補助動詞構文の各形式の記述と合わせて、補助動詞構文に限らずアイヌ語の述部複合を扱い、制約を含めた統語的な特徴を明らかにしていきたい。また、並行して行っているアイヌ語鵡川方言の記述言語学的なフィールド調査については、エリシテーションによる語彙調査、文例調査のほか自由談話、口承文芸、伝統歌謡などの調査・記録を通年で継続的に行っており、今後も記録を続け、データの整理・分析をすすめ鵡川方言の記述言語学的な成果物をまとめていきたい。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
アイヌ語の補助動詞構文の総合的な機能記述にはいたらなかったが、複合制約という観点からアイヌ語の補助動詞構文の統語的特徴を捉えることができた点は、補助動詞に限らず助動詞やアイヌ語の述部複合について研究を進めていくうえで重要な手がかりとなると考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
引き続きアイヌ語沙流方言の公刊資料を用いて述部複合に関する用例の分析を進める。これまでは口承文芸テキストにみられる用例の分析に偏り、用例分布にジャンルの影響があるおそれもあるため、今年度以降も公刊されている広いジャンルの資料の分析をおこなう(そのために、まずは検索可能な状態にするためのテキスト電子化を行う必要があるため、並行して作業していく)。関連する日本語の述部複合の現象との対照もふくめて、アイヌ語のなかで述部複合プロセスと制約の関係を明らかにできるよう分析を進めていく。
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Research Products
(2 results)