2014 Fiscal Year Annual Research Report
DNA損傷応答を介した色素幹細胞の自己複製制御の仕組み
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14J05015
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Research Institution | Tokyo Medical and Dental University |
Principal Investigator |
森永 浩伸 東京医科歯科大学, 難治疾患研究所, 特別研究員(SPD)
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Project Period (FY) |
2014-04-25 – 2017-03-31
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Keywords | 組織幹細胞 / DNA損傷 |
Outline of Annual Research Achievements |
マウスを使って、白髪化、脱毛、創傷治癒など、皮膚に関する種々の現象を幹細胞に焦点を当てながら研究を行っている。
1)マウスの白髪化は、5GyのX線を照射することで引き起こされ、ヒトの白髪研究のモデルとして注目されている。これまでに、白髪化は色素幹細胞がニッチ内で異所的に分化し自己複製ができなくなることで引き起こされることがわかっていたが、その詳しいメカニズムについてはわかっていなかった。本研究では、酸化ストレスやDNA損傷に着目し、白髪化のメカニズム解明を目指している。これまでに、DNA損傷、特にDNA鎖切断の修復において中心的な役割を果たすATRを色素幹細胞特異的に欠損したマウスでは生まれながらに色素幹細胞の維持ができず、白髪化することがわかった。また、酸化ストレス下で発現が誘導され、酸化ストレスに対する耐性に大きな影響を与えるNrf2遺伝子を欠損すると、顕著に白髪化が促進されることもわかった。
2)マウスの脱毛に関して、これまで糖尿病モデルマウスや、高脂肪食を食べさせた肥満マウスでは顕著に脱毛が促進されるという現象がわかった。その際に、皮脂腺の肥大化や毛包幹細胞において脂質分化に重要な因子の発現上昇が引き起こされることもわかっている。これらのデータは、肥満マウスにおいては毛包幹細胞が脂肪細胞様の組織へと変化することで、本来の役割を担えなくなり脱毛したことを示唆している。今後は、直接的には何が原因で脱毛が起こるのか、老化マウスとの共通点はあるのか、何らかの処置や遺伝子改変によってこの現象がrescueできるのかなど、全容解明に向けた課題に取り組んでいく。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
1)色素細胞の維持と破綻の研究に関しては、DNA損傷応答の関わりや、Nrf2遺伝子の関わりが証明され、必要なマウスなどの準備も整ってきている。特にATR遺伝子に関しては、色素幹細胞自身はもとより、その周辺細胞特異的に欠損させることのできるマウスも作成でき、その結果も今年度中にはわかるはずである。また企業との共同研究において、白髪化を顕著に抑制する薬剤スクリーニングも行っており、in vitroでのhit化合物が見つかった。白髪抑制を行える化合物の発見は当初の予定にはなく、更なる発展が期待できると考えている。 2)毛包幹細胞の維持と破綻に関しても、複数のマウスの作成を行い、加齢や肥満ストレスによって毛包幹細胞が表皮もしくは皮脂腺の細胞に分化することがわかった。その中心となっているであろう因子としてもそれぞれ同定されており、更なる解析を行っているところである。 3)皮膚の幹細胞に着目した研究として、現在は創傷治癒に関する研究も行っている。マウスの創傷治癒においては、一般的に再上皮化された部分には色素幹細胞や毛包幹細胞がないことがわかっており、皮膚の品質が低下していると考えられる。また加齢や肥満マウスでは創傷治癒の効率自体が下がっていることも知られている。これまでに、創傷治癒の効率が悪いマウスでは創傷治癒時の細胞分裂に特徴的な変化があることを見出しており、今後様々なマウスを使ってどれほどの影響があるのか調べていく。
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Strategy for Future Research Activity |
1)色素幹細胞に関してATR遺伝子を介したDNA損傷応答がその維持に重要なことがわかってきたが、現在はアダルトになってから特異的にATRを欠損させることにより、恒常性維持における役割を調べている。また、今後は根本的な維持機構の解明に加え、それらを抑える薬剤開発も視野に入れながら研究を行っていく。 2)肥満マウスにおいて、毛包幹細胞の特徴的な変化とそのメカニズムについてわかってきたが、今後はさらに様々なマウスを作製し、そのメカニズムについて調べていく。特に、wntやヘッジホッグpathwayを特異的に促進もしくは欠損させるマウスを作製中であり、脱毛や肥満との関わりを調べていく。 3)マウスに一定の大きさの創傷を引き起こし、その治癒過程を調べることで、ヒトの創傷治癒における様々な問題の解決の糸口を探すことができる。これまでの研究により、創傷治癒の過程で毛包幹細胞が寄与することや、真皮由来の炎症性サイトカインの関与など様々なことがわかってきた。しかしながら、治癒後に生じる瘢痕や色素沈着がどのように引き起こされるのか、回避する手段はあるのか、また、肥満や加齢により創傷治癒の効率が落ちる原因は何かなど、わかっていない部分も多い。そこで、特に加齢や肥満マウスにおいて、幹細胞をトレースできるマウスや、関係が示唆されているpathwayが亢進しているマウスを用いて、その影響を調べていく。
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