2014 Fiscal Year Annual Research Report
外部刺激応答型らせん反転・らせん不斉誘起を利用したキラルシグナル増幅高分子の開発
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14J05141
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
西川 剛 京都大学, 工学研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2014-04-25 – 2017-03-31
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Keywords | らせん高分子 / らせん反転 / ポリ(キノキサリン-2,3-ジイル) / 溶媒効果 / 円偏光蛍光 / アルカン溶媒 / 高分子触媒 / モノマーユニット配列 |
Outline of Annual Research Achievements |
近年、高分子主鎖のらせん不斉誘起において、モノマーの鏡像異性体過剰率よりも主鎖のらせん方向過剰率が大きくなる不斉増幅現象が明らかとなり、大きな興味を集めている。これを利用して光学活性化合物のわずかな胸像異性体の偏りを正確に判別することが可能になっているが、その検出のためには円偏光二色性スペクトルを測定する必要があった。そこで本研究では、微小なキラルシグナルを増幅してらせん不斉誘起・らせん反転を示し、それに伴って蛍光特性変化を示すらせん高分子の開発を目的として研究を行った。まず、微小な外部刺激に応答してらせん反転を示すらせん高分子を開発するため、様々な構造のキラル側鎖を有するポリ(キノキサリン-2,3-ジイル)を合成し、そのらせん不斉誘起挙動について調べた。その結果、溶媒に用いるアルカンの分子形状に依存して主鎖らせん不斉を反転するポリ(キノキサリン-2,3-ジイル)の開発に成功した。また、キラルモノマーとアキラルモノマーの共重合によってポリ(キノキサリン-2,3-ジイル)を合成し、アキラルモノマーユニットがらせん不斉誘起に対して与える影響について検討した。特定のキラルモノマーとアキラルモノマーの組み合わせを用いた場合に、モノマーユニット配列(ブロックコポリマーとランダムコポリマー)に依存してらせん不斉が高選択的に反転することが明らかになった。続いて、ポリキノキサリン主鎖の有する蛍光特性について調べたところ、主鎖らせん不斉に由来する円偏光蛍光(CPL)が観測された。さらに、溶媒依存性らせん反転を利用することによって、CPLのキラリティスイッチを達成した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
本研究では、らせん高分子の不斉増幅現象を利用し、微小なキラルシグナルを増幅して目視での識別が可能な蛍光特性変化を示す高分子を開発することを目的としている。本年度の計画として「微小な変化に応答してらせん反転するらせん高分子」と「主鎖のらせん反転に応答して蛍光特性変化を示すらせん高分子」の開発を目指した。まず、側鎖に(S)-3-オクチルオキシメチル基を有するポリキノキサリンを合成することによって、アルカン溶媒の分子形状に応答したらせん反転を実現した。さらに、重合度を増加させることによってn-オクタンとシクロオクタンの間での完全ならせん反転を達成し、これを高分子不斉触媒に応用することによって高い選択性でエナンチオマーの作り分けを達成している。また、この(S)-3-オクチルオキシメチル基を持つキラルユニットは、隣接するユニットの種類に依存してらせん誘起挙動が大きく変化することも明らかにした。これを利用して、モノマーユニット配列(ブロックコポリマーとランダムコポリマー)に依存した高選択的不斉らせん反転を実現した。これらの結果は(S)-3-オクチルオキシメチル基が周囲の環境に鋭敏に応答してらせん反転を引き起こすことを示しており、微小な外部刺激に応答するらせん高分子を設計するにあたって重要な知見が得られたと考えている。また、キラル側鎖によって主鎖らせん不斉が誘起されたポリキノキサリンのCPLスペクトルを測定したところ、らせん不斉に由来するピークが観測された。また、溶媒依存性らせん反転を示す種々の溶媒について検討を行ったところ、主鎖らせん不斉に対応してCPLのキラリティが反転することが明らかになった。これは、らせん反転に伴った蛍光特性変化を示すポリキノキサリンを設計する上で重要な発見である。以上の結果より、本研究は当初の計画以上に進展していると考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
これまでに、アルカン溶媒の分子形状の違いに基づいたらせん反転、およびモノマーユニットの配列に依存したらせん方向選択性の逆転について明らかにした。これらの研究においてはポリマーの構造検討を行った際に、キラル側鎖として(S)-3-オクチルオキシメチル基を用いることが重要であることが明らかになっている。このようなわずかな違いに対する(S)-3-オクチルオキシメチル基の鋭敏な応答性は非常に興味深く、現在、類似構造を有するキラル側鎖の設計・合成を進めている。これにより、当初予定していたキラルシグナルの増幅を行う高分子のみならず、種々の微小なアキラルな外部刺激をも標的とし、それを増幅してらせん反転を示す高分子を開発できると考えている。 また、ポリキノキサリンの主鎖らせん不斉に由来するCPLについても報告を行った。溶媒に依存した主鎖らせん不斉の反転により、CPLスペクトルが反転することも明らかにしている。この性質は、主鎖らせん不斉の変化を蛍光特性変化として取り出すことを目指す上で重要である。ただし、ポリキノキサリンの主鎖由来の蛍光量子収率は0.7%と非常に低いことが問題点となっている。これを解決するために、強い蛍光を示す置換基を導入したレポーター部位を主鎖に近接した形でポリキノキサリンに導入することを考えている。ポリキノキサリン主鎖のらせん不斉の影響を受けることでレポーター部位に由来する円偏光蛍光が発現すれば、キラリティスイッチの可能な高効率円偏光蛍光材料の開発が可能となると考えている。さらに、レポーター部位の適切な設計やポリマーの薄膜化等により、円偏光蛍光の非対称性因子の改善も目指す。 最後にこれらの成果を組み合わせることにより、微小なキラルもしくはアキラルシグナルに応答して効率的な蛍光特性変化を示す高分子材料の開発を目指す予定である。
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Research Products
(7 results)