2014 Fiscal Year Annual Research Report
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14J05171
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Research Institution | Kobe University |
Principal Investigator |
市原 晋平 神戸大学, 人文学研究科, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2014-04-25 – 2016-03-31
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Keywords | 近世 / 18世紀 / 地域史 / 市場町 / ロマ/「ジプシー」 / マイノリティ / 国際研究者交流 / ハンガリー |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は18世紀のハンガリー王国において「周囲からツィガーニと呼ばれた人々」(以下、ツィガーニ)が取り結びえた社会的諸関係の解明を目的とし、18世紀前半から末にかけて作成された地域レベル(特に市場町ミシュコルツ)の史料を検討することでその課題に取り組むものである。なお、ツィガーニはハンガリー語で「ジプシー」を意味し、それはロマ民族への蔑称の一つと見なされる傾向があるが、本研究は、史料中でそのように表現された人々そのものを対象とするため、18世紀に限ってはその表現を用いる。 平成26年度の前半には、史料・文献調査をハンガリーのミシュコルツ、ブダペシュトにて実施し、18世紀史関連文献や当時のツィガーニに関する行政文書、裁判関連文書、統計調査資料などを収集した。また、現地の研究者数名と意見交換を行い、その際の勧めもあり、調査成果の一部をハンガリーで論文化した。帰国後は史料の情報整理を進め、加えて調査成果の一部を用いた研究報告を日本ロマ学研究会、ならびにジプシー研究会にて行った。 以上の成果のうち、ミシュコルツ大学の紀要に発表した論文では、18世紀後半にボルショド県ミシュコルツ郡で作成された統計的史料『ツィガーニ帳簿』を用い、同地域におけるツィガーニの定住・非定住の度合やその変動、ツィガーニによる移動の特徴などを検討した。研究報告については、ともに、ロマ/「ジプシー」を研究する歴史学以外の研究者が中心となる集会で行われたため、その内容も、ロマ自身が描くロマの歴史に内在する民族主義的バイアスの指摘や、ロマ/「ジプシー」研究に対して歴史学、中でも近世史研究が持ちうる意義(近代的ロマ/「ジプシー」認識の相対化)の説明など、他の専門分野と議論を深めるための準備作業という性格が強いものとなった。出席者からは歴史的視点で見ることの重要性を改めて認識したとの感想を受け取るなど、概ね好評を得られた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初予定していた史料の収集が概ね完了し、それらを基に研究報告、博士論文やその他の学術論文の執筆が可能な状況を構築することができたためである。確かに、当初予定していた個別テーマ(18世紀のツィガーニの頭領の機能、18世紀ハンガリー社会におけるツィガーニの「犯罪」行為、市場町におけるツィガーニの経済的機能、など)については、いずれも年度中に論文投稿や研究者集会での研究報告を行うことがかなわなかった。しかし、これらのテーマについては着実に発表の準備を進めている。また、関連する別のテーマ(ツィガーニの領域的流動性)を扱った論文をハンガリーにて発表できたこと、ロマ/「ジプシー」をめぐる学際的な研究者集会で2度、ロマ/「ジプシー」の歴史を研究する意義に関する報告を行ったことなどを考慮すると、本研究は平成26年度において一定程度進展を見せたと言える。
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Strategy for Future Research Activity |
平成26年度の反省点として、歴史学分野の研究者集会にて研究成果を発表することが叶わなかったことが挙げられる。それを踏まえて、次年度は、年度中の博士論文の提出を最重要課題としつつ、歴史学系の学会・研究会での報告、学術誌への論文投稿をより積極的に行っていきたい。 手始めに、2015年5月16、17日に富山大学で開催される第65回日本西洋史学会大会にて「18世紀ハンガリー社会におけるツィガーニの頭領の機能― 市場町ミシュコルツの事例を中心に ―」という題目で自由論題報告を行う予定である。また同様の内容を扱った論文の投稿も現在準備中である。 史料・文献調査に関しては、博士論文の執筆や、その内容の一部を学術雑誌に投稿するにあたり、手元の資料のみでは立論が十分にできなかった場合に、それを補足可能な資料を入手するために、今年度も適切な時期に行う予定である。少なくとも、博士論文提出以降(2016年1月~3月)に、ハンガリーへの数週間の渡航を一度予定している。
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Research Products
(4 results)