2014 Fiscal Year Annual Research Report
線虫を用いたビタミンB12欠乏による代謝異常症の分子栄養学的メカニズムの解明
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14J05387
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Research Institution | Tottori University |
Principal Investigator |
美藤 友博 鳥取大学, 連合農学研究科, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2014-04-25 – 2016-03-31
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Keywords | ビタミンB12 / 線虫 / 酸化ストレス / 認知機能障害 / 神経障害 |
Outline of Annual Research Achievements |
現在、高齢者で増加するビタミンB12(B12)欠乏性神経障害(特に認知機能障害)の予防・治療法が求められている。本研究ではB12欠乏線虫(Caenorhabditis elegans)を用いて、B12欠乏性神経障害の発症機構の解明を目指している。 本研究を迅速に進めるためにB12酵素の拮抗阻害剤を開発し、短期にB12欠乏線虫を調製することに成功した。 B12の欠乏は線虫に著しい酸化ストレス障害を及ぼし、顕著な学習能の低下を引き起こした。B12欠乏により誘発される酸化ストレスの増大のメカニズムを検討するため、様々な酸化ストレスマーカーを測定した。その結果、B12欠乏線虫は活性酸素種と活性窒素種の産生に関与するNADPH酸化酵素活性及び一酸化窒素合成酵素活性が顕著に上昇し、過酸化水素や活性窒素種の著しい蓄積を示した。さらに、B12欠乏線虫では抗酸化物質含量と抗酸化酵素活性が顕著に低下していた。以上の結果から、B12欠乏線虫では生体内レドックス制御機構の破綻により酸化ストレスが著しく増大することが明らかになった。 酸化ストレス障害が学習能に及ぼす影響を検討するため、抗酸化物質を投与した培地でB12欠乏線虫を調製した。その結果、抗酸化物質投与のB12欠乏線虫は酸化ストレスが減少し、B12欠乏線虫よりも学習能の低下が50%程度に抑制された。この結果はB12欠乏が起因となる酸化ストレス障害が学習能の低下を誘発することを示した。 B12欠乏線虫のB12酵素と共役するアミノ酸代謝異常や神経伝達機能を調節するポリアミン代謝異常を見出し、これがB12欠乏線虫の学習能の低下の要因であることを明らかにした。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
これまでの研究において、B12の欠乏は線虫に著しい酸化ストレス障害を及ぼし、顕著な学習能の低下を引き起こしたことから、B12欠乏と学習能に強い関連性を見出した。そこで、本研究はB12欠乏による酸化ストレスが線虫の学習能に及ぼす影響を明らかにすることを目的とした。 先ずB12欠乏により引き起こされる酸化ストレスの増大を解析した。B12欠乏線虫では活性酸素種と活性窒素種の産生に関与するNADPH酸化酵素及び一酸化窒素合成酵素の活性が顕著に上昇し、酸化ストレスの要因である過酸化水素や活性窒素種が著しく蓄積していた。B12欠乏が線虫の抗酸化酵素に及ぼす影響を検討した結果、B12欠乏線虫ではスーパーオキシドジスムターゼとカタラーゼ活性が著しく低下していた。また、B12欠乏線虫は抗酸化物質であるグルタチオンが顕著に減少していた。これらの結果より、B12欠乏線虫では生体内レドックス制御機構の破綻により酸化ストレスが著しく増大することが明らかになった。 B12欠乏による酸化ストレスが線虫の学習能に及ぼす影響を検討するために、食品由来の抗酸化物質(グルタチオン及びビタミンE)を添加した培地でB12欠乏線虫を調製した結果、ビタミンE及びグルタチオンを添加したB12欠乏線虫はB12欠乏線虫と比較し、酸化ストレスが減少し、学習能の低下が約50%まで抑制された。以上の結果から、B12欠乏による酸化ストレスが線虫の学習能を低下させることが明らかになった。また、抗酸化物質添加によりB12欠乏線虫の学習能の低下が50%程度しか抑制できなかったことから酸化ストレス以外にもB12欠乏線虫の学習能を低下させる要因が存在することが推測された。 以上のことから、本研究では当初の目的をほぼ達成しており、本研究がおおむね順調に進展していると判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究より、B12欠乏による学習能の低下はグルタチオンとビタミンEで抑制することが可能であった。そこで、B12欠乏性認知機能障害の予防法や診断法の基盤を築くため、B12欠乏線虫の学習能の低下が他の抗酸化物質によっても抑制されるのか検証する。また、抗酸化物質の同時添加による相加効果についても検討する。 B12欠乏線虫では生体内抗酸化物質であるグルタチオンの顕著な減少をはじめレドックス制御機構が破綻していたが、生体内の代表的な抗酸化物質であるチオレドキシンについては不明である。そこでB12欠乏線虫を用いて、B12欠乏がチオレドキシンに及ぼす影響を分子レベルで検討する。 B12欠乏性神経障害の発症機構を解明するために、酸化ストレス以外の学習能低下の要因を特定することが必須である。本研究ではこれまでにB12欠乏線虫において、神経伝達機能を調節するポリアミン代謝異常を見出している。そこで、B12欠乏線虫の学習能低下にポリアミン代謝異常が関与しているのか詳細に検討する。また、上記の結果を2報の学術論文に投稿する。
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Research Products
(7 results)