2014 Fiscal Year Annual Research Report
内在性レトロウイルスの宿主との共進化メカニズムの解明
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14J05589
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
下出 紗弓 京都大学, ウイルス研究所, 特別研究員(DC2) (90772103)
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Project Period (FY) |
2014-04-25 – 2016-03-31
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Keywords | 内在性レトロウイルス / ゲノム / 組換え |
Outline of Annual Research Achievements |
内在性レトロウイルス(ERV)は哺乳類ゲノムの約10%を占め、生物の進化の一端を担ってきたといえる。現在までERVの発生した起源・メカニズムを証明した報告はない。本研究では、ネコのERVであるRD-114ウイルスをモデルに内在化メカニズムを明らかにすべく実験を行った。研究開始にあたり、対象となるRD-114ウイルスの宿主ゲノム内での存在様式を知る必要があった。RD-114ウイルスはヒトの横紋筋肉腫組織をネコ脳内に接種した際に分離されたウイルスであり、ネコゲノム内での座位は不明であった。in silico解析、サザンブロッティング、インバースPCRの結果、すべてのイエネコがC2染色体にRD-114ウイルス関連配列(RD-114 virus-related sequence, RDRS)を保有していることがわかり、これをRDRS C2aと名付けた。さらに、RDRS C2a以外にもRDRSを保有している個体が存在することがわかった。これらRDRSはすべてのイエネコが保有しているわけではないため、「新しい」RDRSと総称した。RDRSはいずれも既報のRD-114ウイルスの配列と90%以上の相同性を示したが、完全に一致する全長配列の座位は存在せず、いずれも非感染性であった。C1染色体に位置するRDRS C1はpol領域における一塩基置換により感染性を消失しており、A2染色体に位置するRDRS A2との細胞内組換え反応により既報のRD-114ウイルスと同等の力価を示す感染性ウイルス粒子が産生されることを見出した。 本研究により、同じ感染性レトロウイルスが複数回にわたって宿主ゲノムへと侵入し内在化していくということが明らかとなった。多くのERVは既に内在化が完了しているが、RDRSは内在化途中にあることが明らかとなり、ネコとRDRSの系はERVの内在化メカニズムを明らかにする上で重要なモデルとなることがわかった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究では、ネコのERVであるRD-114ウイルスをモデルに内在化メカニズムを明らかにすべく実験を行った。本年度は、研究開始にあたりRD-114ウイルスの宿主での存在様式を明らかにすることを必要とした。in silico解析、サザンブロッティング、インバースPCRによりRD-114ウイルスの遺伝子のコピー数を明らかにし、env遺伝子を標的としたインバースPCRにより座位を決定した。 本年度の研究成果により、RD-114ウイルスは複数の関連配列として宿主ゲノム内に保持されているものが細胞内組換え反応によりウイルス粒子として産生されたものであるということがわかった。さらに、RDRSが複数回にわたって宿主ゲノムに侵入し内在化していったということが明らかとなった。多くのERVは既に内在化が完了しているため、内在化メカニズム解明のためのモデルとしては適さないが、RDRSは内在化途中にあるといえる。ERVは宿主ゲノムへと侵入後、変異や欠失、エピジェネティックな制御によりウイルスとしての機能を失い、宿主ゲノムとして振る舞うように変化していくとされている。RDRS C2aがすべてのウイルス遺伝子のコード領域にストップコドンを有していたのに対し、「新しい」RDRSの多くはenv遺伝子のオープンリーディングフレームを保持し、ウイルス様粒子産生能を有していた。間接的ではあるが、本研究成果により共通の祖先ウイルスから派生したERVの継時的変化をみることができた。これらの結果により、ネコとRDRSの系はERVの内在化メカニズムを解明するための貴重なモデルとなることがわかった。
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Strategy for Future Research Activity |
初年度の研究成果により、感染性レトロウイルスが複数回にわたって宿主ゲノムに侵入し内在化していったということが明らかとなった。ERVは宿主ゲノムへと侵入後、宿主による制御によりウイルスとしての機能を失い、宿主ゲノムとして振る舞うように変化していくとされているが、内在化後のERVの継時的変化について評価するためのモデルは少ない。RDRSについては最も古いRDRS C2aはすべてのウイルス遺伝子のコード領域にストップコドンを有していたのに対し、「新しい」RDRSの多くはenv遺伝子をはじめウイルス遺伝子のオープンリーディングフレームを保持し、細胞内組換え反応などにより感染性ウイルス粒子を産生する能力を有していることがわかった。同じ祖先ウイルスをもつ複数のERVの存在は内在化メカニズムを知る上で貴重なモデルとなる。初年度は「新しい」RDRSのウイルス粒子産生能に注目し内在化初期過程におけるERVの動態を明らかにしてきたため、今後はRDRS C2aについて宿主ゲノムへと侵入後、どのような宿主の制御を受け何が選択されたのか、ERVとしての機能を獲得するまでの経過などを探る予定である。次年度においてもRDRSの系をモデルにERVの内在化メカニズムをより詳細に解明できると期待する。
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Research Products
(5 results)