2014 Fiscal Year Annual Research Report
求核性硫黄配位子と求電子性NHC多核金属ユニットの融合による電解還元触媒系の開発
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14J05648
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Research Institution | Osaka City University |
Principal Investigator |
前田 友梨 大阪市立大学, 大学院理学研究科, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2014-04-25 – 2016-03-31
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Keywords | 電解還元触媒 / プロトン還元 / 多核錯体 / N-ヘテロ環カルベン錯体 / 硫化物配位子 |
Outline of Annual Research Achievements |
キレート型N-へテロ環カルベン白金およびパラジウム錯体ユニットとペンタメチルシクロペンタジエニルロジウムあるいはイリジウムユニットを組み込んだ三重架橋硫化物配位子をもつ異種金属三核錯体群の還元体の調査および酸存在下でのプロトン還元触媒能の評価を行った。 電気化学測定で、ジカチオン錯体からモノカチオン錯体、モノカチオン錯体から中性の分子性錯体、二段階の可逆な還元波を示すロジウム-白金ジカチオン錯体を段階的に電解還元し、吸収スペクトルを測定した。電解還元により得られたモノカチオン錯体では、ジカチオン錯体で670 nm付近に観測された吸収が減少し、770 nm付近に新しい吸収を示した。更に還元した分子性錯体では、710 nm付近に吸収を示した。これらの錯体の分子軌道計算から、観測された吸収が、ジカチオン錯体ではHOMO-LUMO、モノカチオン錯体ではSOMO-LUMO、分子性錯体ではHOMO-LUMOの遷移と帰属した。 また、混合金属三核錯体群について、酸存在下でのサイクリックボルタンメトリー測定を行い、電解還元触媒能の調査と錯体中の白金とパラジウムの違いにより生じる差異に注目し、比較を行った。プロトンソースに酢酸を用いた時には、白金もパラジウム錯体のどちらの場合にも触媒電流は観測されず、これらの錯体は触媒として働いていないことが分かった。しかし、プロトンソースにトリフルオロ酢酸を用いた時には、白金錯体では2電子還元後に、パラジウム錯体では1電子還元後に触媒電流が観測され、どちらにおいても錯体がそれぞれ2電子あるいは1電子還元後にプロトンと相互作用し、その後に水素への還元が起こるというECE過程で進行していると考えられる。白金錯体とパラジウム錯体で異なる挙動を示したのは、それぞれの錯体のコア部位の塩基性の差違がプロトンとの相互作用に大きく関係しているからであると推測出来る。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
白金をパラジウムに置き換えた混合金属三核錯体の合成を確立できた。これにより、金属部位が、白金-ロジウム、白金-イリジウム、パラジウム-ロジウム、パラジウム-イリジウムの錯体群を得ることができた。これによって、本研究の目的達成に不可欠な、それぞれの錯体群の電気化学的性質、電子的性質、電解還元触媒能の比較が可能となった。 混合金属三核錯体の還元体の単離については、生成物が非常に不安定なため、現在のところ成功していないが、電解スペクトル測定によって得られた各還元段階の生成物の650 ~800 nmの間に現れる吸収帯と、分子軌道計算によって得られた結果が良く一致しており、計算で得られた最適化構造が妥当であるとの結果を得ている。 また、混合金属三核錯体のサイクリックボルタンメトリー測定を二酸化炭素存在下で行ったが、還元電流は観測されなかった。そのため、ターゲットをプロトン還元に絞り、混合金属三核錯体群が、プロトン還元能を示すことを明らかにした。この系では、白金とパラジウムの違いにより、プロトンの還元挙動に大きな差があることが見いだされた。これは、電解還元サイクルの反応機構解明におおいに役立つと考えられる重要な結果である。 また、当初の目的であった硫化物配位子をセレン化物配位子に置き換えた混合金属三核錯体の合成については、これまでにその生成を核磁気共鳴分光により確認できている。現在、単離と精製を行っており、若干の遅れはあるが、セレン化物配位子をもつ混合金属三核錯体の合成は、ほぼ達成しているといえる。
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Strategy for Future Research Activity |
混合金属三核錯体の還元体の構造解析は、本研究で重要な位置を占めるため、化学的還元による生成物の単離については、反応条件の最適化を行うなどして引き続き試みる。 また、二酸化炭素の電解還元については、ペンタメチルシクロペンタジエニル配位子を持つイリジウム三核錯体で報告されているのと同様に、混合金属三核錯体の還元体がそのまま触媒活性種となっているのではなく、還元体が溶媒分子等と反応して触媒活性をもつ化学種となることが考えられるが、サイクリックボルタンメトリーで可逆な還元波を示すことから、触媒活性種が生成する反応は比較的遅いものと予想される。これらのことから、混合金属三核錯体をバルク電解し、その生成物の反応の経時変化を調べる必要があると考えている。経時変化を示した場合には、生成した化学種の同定および単離を行い、この化学種を触媒として用いた二酸化炭素の電解還元反応を検討する。さらに、前年度に生成を確認したセレン化物配位子を持つ三核錯体の単離、構造解析、電子的および化学的性質の調査を行い、硫化物三核錯体と比較するとともに、二酸化炭素に対する電解触媒能を調べる。 プロトン還元については、これまでに合成した混合金属三核錯体を電解触媒として用いたプロトン還元触媒反応の詳細について検討を行い、中間体の構造の解明等を通して、そのメカニズムの解析を行う。さらに、鉄イオンを2つ含み、NHC白金あるいはパラジウムユニットを有する混合金属三核錯体を合成し、構造および電気化学的性質を明らかにするとともに、プロトンの電解還元触媒能について調査を行う。
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Research Products
(5 results)