2014 Fiscal Year Annual Research Report
震災復興を目的とした社会選択モデルに関する経済分析
Project/Area Number |
14J06009
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
関藤 麻衣 東北大学, 環境科学研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2014-04-25 – 2017-03-31
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Keywords | 環境・エネルギー問題 / 東日本大震災 / 再生可能エネルギー / 太陽光発電 / 節電行動 / 余剰電力買取制度 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は、今後の復興施策や持続可能な社会構築の課題とされる環境・エネルギー問題に着眼し、家庭部門への再生可能エネルギーの導入拡大と省エネの促進に関する消費者の選好の理解を目的に二つの分析を行った。 第一に、太陽光発電システムの普及速度と消費者の購入行動に着目し、購入の意思決定にかかる時間と、その意思決定に影響を与える要因を分析した。調査の結果、消費者の導入検討期間は約3.9か月であった。消費者の購入の意思決定に焦点を当てた計量分析の結果から、指標などを用いて消費者が得た情報や知識、近隣住民や他オーナーなど実際の利用者から得た情報や知識は,消費者の意思決定を慎重にさせ、検討期間を延ばすことが示された。 第二に、太陽光発電システム既設者を対象に取得した実際の電気使用量データを用いて、PVシステム導入による電力需要への影響と、電力需要削減の直接的な要因となる技術性能と行動変容のインパクトを推計した。推計結果より太陽光発電システムの導入による電力需要削減への影響は、PVシステムの技術性能によるものが大きく、電池容量が1kW上がるごとに、月当たり約517円(夏季)、約152円(冬季)、約334円(年間)の節電効果がある。一方、技術導入による個人のピークシフトなどの行動変容による電力需要削への影響は小規模にとどまることが明らかとなった。太陽光発電システム導入により、世帯の電気機器の利用頻度や利用時間が大幅に減少した人は全体の2.5%であり、月当たり約555円(夏季)、約185円(冬季)、約371円(年間)の節電効果がある。太陽光発電システムの導入により、世帯の電気機器の利用頻度や利用時間が大幅に増加した人は全体の6.6%であり、月当たり約49円(夏季)、約33円(冬季)、約40円(年間)のリバウンド効果が発生することが明らかとなった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究課題の目的は、早急な合意形成かつ社会費用の低い効率的な施策実行のための方法を、環境経済学と行動科学のアプローチから明らかにすることである。特に今後の復興施策や持続可能な社会構築の課題とされる(1)災害廃棄物処理地の選定(2)被災者の居住地の選択(3)復興関連の技術や方法の選択に関する人々の選好の理解に取り組む。本年度は環境・エネルギー問題に着眼し、家庭部門への再生可能エネルギーの導入拡大と省エネの促進に関する消費者の選好の理解を目的に二つの分析を行った。 本年度の成果から強調できることは、家庭部門の節電には経済インセンティブの考えが重要であるということである。これには二つの意味がある。一つは、経済インセンティブは人々を動機づけることができる点である。研究結果から、余剰電力買取制度が消費者の太陽光発電システム購入の意思決定を促進する要因となることが明らかとなった。さらに世帯の電力消費量の削減には、個人の環境意識や日常的な行動に関わらず技術性能が大きく影響していることが明らかとなった。 もう一つは効率性の観点である。研究結果から、世帯人数の多い世帯ほど太陽光発電システム購入の意思決定が早くなることが示された。さらに世帯人数や延べ床面積が大きい世帯ほど世帯内の電力使用量削減のインパクトが大きいことが明らかとなった。これは、潜在的に電力使用量が多い世帯ほど、大きな節電効果が期待できることを示している。より費用の低い主体が節電行動に積極的に取り組むことによって、全体として社会が目標を達成に必要とする費用を安く抑えることができる。 これらによる研究結果は本研究課題(2)被災者の居住地の選択(3)復興関連の技術や方法の選択に関する社会選択に関して、今後の社会作りや都市計画に新たなインプリケーションを示唆できるものである。
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Strategy for Future Research Activity |
次年度以降は、東日本大震災以降の人々の移動や交通機関選択に関する選好の理解に取り組む。私たちは、日々生活する上で様々な交通手段を利用している。東日本大震災を契機とする社会・経済情勢の変化により、環境や防災といった要素を十分に考慮した持続可能な社会構築が望まれ、雇用や住宅の都市への集積は一層進む傾向にある。同時に環境意識の高まりとともに、より環境に優しい交通手段を選ぶ人々も増えている。しかしながら、人々の移動から生じる排気ガス(一酸化炭素、二酸化炭素、窒素化合物、PM)や外部不経済性(混雑、ストレス)の問題は、今後さらに社会的重要性を増していくと考えられる。本研究では、都市や人々の住環境・雇用環境・家族特性や個人特性を考慮したアンケート調査を実施し、それらと人々の交通機関選択に関する選好や自動車の保有や利用に関する選好との関わりを分析する。 これらの研究成果は本研究課題(2)被災者の居住地の選択(3)復興関連の技術や方法の選択に関する人々の選好の理解に関連し、①エコカー減税・補助金などの環境関連政策、②交通網の整備などの都市計画関連政策、③交通費の支給やフレックスタイム・裁量労働制などの労働関連政策など都市設計や社会制度設計に関するより具体的なインプリケーションを探る。 また、本研究課題(1)災害廃棄物処理地の選定に関しては研究計画当初、アンケートで取得した仮想データから人々の一般廃棄物の最終処理場設置に関する選好を分析する予定であったがその他の実証データを用いて分析している研究と統一性を持たすため研究計画を一部変更する。具体的には、災害廃棄物処理地の選定に関して実際に存在するデータをアンケート上で収集し、施設設置に関わるさまざまな費用を考慮した上で最終的にどこにどんな施設を設置するようにすれば人々の同意が得られやすいかを分析する。
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Research Products
(1 results)