2014 Fiscal Year Annual Research Report
炭素安定同位体を用いた畜産廃棄物由来病原ウイルスの微生物燃料電池における挙動解析
Project/Area Number |
14J06012
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Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
伊藤 寿宏 北海道大学, 工学院, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2014-04-25 – 2016-03-31
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Keywords | ウイルス除去効率 / ベイズ推定 / 腸管系ウイルス / 内在性コントロール / MF-qPCR |
Outline of Annual Research Achievements |
腸管系ウイルスは,人体内で増殖し感染者の糞便中に排出されることから,それら糞便を含む下水を経由した河川や海域の汚染が主要な汚染経路であると考えられている。下水を介した腸管系ウイルスによる水系感染症のリスクを評価するためには,下水処理プロセスにおける腸管系ウイルスの除去効率を正確に把握する必要がある。本研究では,既報のベイズ推定モデルを用いて,下水処理施設における流入下水および下水処理水の腸管系ウイルスの実測値から水中ウイルス濃度分布およびそれらの濃度比分布を正確に推定することを目的とした。下水中には複数種の腸管系ウイルスが存在することから,それらのウイルスを迅速に定量するために,本研究ではマイクロ流体工学に基づく定量PCR法(Microfluidic quantitative PCR: MF-qPCR)を用いて実験を行った。また本研究では,実験工程を管理するための内在性コントロールとして,既知濃度のウイルスとプラスミドDNAを用いた。 結果として,本研究において用いたコントロールウイルスおよびプラスミドDNAの定量結果から,実験工程は問題なく行われたことが確認された。下水サンプル中に存在するウイルスに関しては,流入下水のサンプルから5種類の腸管系ウイルスが検出・定量されたものの,下水処理水サンプルにおいては今回定量を行った腸管系ウイルスすべてにおいて,陽性率が0%であった。 本年度において得られた成果としては,内在性コントロールを使用することにより,定量PCR法において観測値が得られなかった場合においても,実験が適切に実行されたことを証明する手段として有用であることを示した。この知見は,不要な再実験による時間的ならびに経済的な損失防止に寄与するものであり,工学的に非常に有用な情報であるといえる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究では,当初創エネルギー型の新規水処理技術である微生物燃料電池の下水サンプルを対象として研究を遂行していたものの,既存の水処理技術に対して微生物燃料電池のウイルス除去効率が著しく低いことから,高いウイルス除去効率が見込まれる膜分離活性汚泥法(Membrane Bioreactor: MBR)の流入下水と下水処理水のサンプルを対象とし,MBRリアクター内の腸管系ウイルスの挙動解析を試みた。また,MBRリアクターにおけるウイルス粒子の挙動解析を行うにあたり,安定同位体元素のウイルス粒子への標識が困難であったことから,分析手法を水中のウイルスを高感度に検出することができる定量PCR法に基づいた手法に切り替え実験を行った。 実験手法こそ当初予定していた計画とは異なるものの,複数種のウイルス遺伝子を同時的かつ特異的に検出・定量することができる新規技術を取り入れることにより,本研究の第一目標である「水中に存在する腸管系ウイルスの挙動解析」に必要な定量データの蓄積に成功した。
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Strategy for Future Research Activity |
本年度の研究において,流入下水サンプルから検出・定量された5種類の腸管系ウイルスは,ベイズ推定モデルによる正確な水中ウイルス濃度分布の推定に必要な陽性率を満たしていたものの,下水処理水サンプルに関しては,今回定量を行った腸管系ウイルスすべてにおいて,陽性率が0%であった。下水処理場におけるウイルス除去効率を評価するためには,流入下水および下水処理水両方のサンプルにおいて,水中ウイルス濃度分布が正確に推定される必要がある。そこで本研究では,下水サンプルから得られた陽性サンプル数に基づいてベイズ推定モデルで実行される計算過程が変化する,すなわち陽性サンプル数に対し最適な濃度分布推定が行われる推定モデルの作製を現在検討している。
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