2014 Fiscal Year Annual Research Report
非平衡超伝導:長時間ダイナミックスのための動的平均場理論開発と光誘起超伝導
Project/Area Number |
14J06198
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
村上 雄太 東京大学, 理学系研究科, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2014-04-25 – 2016-03-31
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Keywords | 国際情報交換、スイス / 基礎モデルの性質解明 / 電子格子系における超固体相の発見 / 強結合電子格子系の非平衡問題の定式化 / 非平衡超伝導体のダイナミックスの理解 |
Outline of Annual Research Achievements |
強結合電子格子系における光誘起超伝導の理解とそれを行うための長時間シュミレーションを可能にする手法開発を目的として研究を進めてきた。特に最も基礎的なモデルである Holstein モデルに注目した。 まず、非平衡を研究する上で重要な事は(非平衡状態への)出発点、即ち平衡状態の性質の理解である。特に、秩序相のコントロールを目的とした本研究においては異なる秩序相の競合の理解が大切である。しかし、この観点からの系統的な理解は方法論の欠如により十分ではなかった。このため我々は平衡の動的平均場と量子モンテカルロ法を組み合わせでHolsteinモデルの相図の系統的な決定を行った。これにより中間結合領域に限り、超固体相と呼ばれる超伝導性と固体性両方を兼ね備えた興味深い状態が出現する事を見いだし、発現機構を従来の強結合理論を発展させる事により明らかにした。 次に非平衡現象を研究するために、電子格子系における従来の非平衡動的平均場理論の構築と整備を行い、コード開発を行った。また、それに伴い動的平均場に付随する不純物問題の近似解法の精度を平衡の動的平均場と量子モンテカルロ法を用いて評価した。まず、超伝導状態のダイナミックを知る前に非秩序相(正常相)の性質の理解は有用と考え、開発したコードを適用した。これにより弱結合側と強結合側で非平衡緩和過程は定性的に異なる二つの領域に分けられる事を明らかにし、種々の物理量にどのように反映されるかを明らかにした。 次に、超伝導状態の非平衡現象に先のコードを適応した。これにより、強結合フォノン由来超伝導体においてクエンチ後の緩和過程では非熱的臨界点が存在し、平衡系とは異なる比較的安定した非平衡超伝導状態が実現される事が分かった。現在はこの現象の発現機構の理解とより安定した非平衡超伝導状態の実現方法の探索を目標に研究している。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
この一年間で達成した事は主に(1)(出発点である)平衡状態の理解、(2) 有効不純物問題の近似解法の精度の理解、そして(3) 従来の非平衡動的平均場で記述される非平衡現象の理解である。 (1) に関しては計画範囲外であるが、得られた知見は必ず今後の研究に役立つと考える。(2)に関しては、当初の1年目の目標の一つであり、これは達成出来たことになる。(3)に関しては、従来の非平衡動的平均場自体は新手法と比較されるべきものであり、一年目の目標に掲げていた”新手法の定式化と実装”の過程の一部と見なせる。新手法自体の開発は想定したようには捗ってはいないものの、従来の非平衡動的平均場の枠組みで既に興味深い物理現象をとらえられた。即ち、クエンチ的な励起において非熱的臨界点の存在と比較的安定な非平衡超伝導状態が存在する事を明らかにした。この現象をクエンチ以外の方法による系のコントロールと上手く組み合わせる事でより安定した非平衡超伝導状態を実現することが可能ではないかと考えている。このように、今後の研究の重要な鍵になると期待される現象の存在を示した事は新手法の開発の遅れを埋め合わせるものであると考えられる。 以上を理由におおむね順調に進展しているとした。
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Strategy for Future Research Activity |
2年目の研究では、1年目の研究成果を踏まえ、非熱的臨界点と比較的安定な非平衡超伝導状態の発現機構を明らかにし、それを生かした様々なコントロールの方法(外場の種類)との組み合わせを考え、より安定した非平衡超伝導状態の実現を目指す。1年目の経験から、従来の非平衡動的平均場理論のコードで現実的にアクセス可能な時間スケールが具体的に明らかになり、本年度で様々なコントロール方法の効果を調べるにあたり、我々が計画書で提案した長時間の、そして光誘起のシュミレートを可能にする方法が必要である事が再確認できた。そのため、1年目で完成しなかったこの新手法の完成が、先に述べた目標を達成するための重要課題の一つと考える。 以上を第一の目標とするが、当初の実施計画において2年目の目標としていた"競合秩序相の融解による光誘起超伝導"の研究も第1目標の達成度を伺いながら実施する事にする。
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