2014 Fiscal Year Annual Research Report
表面光電子分光による金属内包シリコンクラスター集積薄膜の電子物性評価
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14J06407
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Research Institution | Keio University |
Principal Investigator |
太田 努 慶應義塾大学, 理工学研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2014-04-25 – 2017-03-31
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Keywords | ナノクラスター / マグネトロンスパッタリング / X線光電子分光 / 2光子光電子分光 / 表面科学 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、原子レベルでの機能性物質の創成という観点から、金属内包シリコンクラスターをサイズ選択的に非破壊で表面上へ担持し、その電子物性を励起状態も含めて精密に追跡することである。はじめに、クラスターの精密気相合成・蒸着システムの開発を行った。薄膜生成に十分な量のクラスターを得るため、気相合成にはマグネトロンスパッタリング法を採用した。さらに目的のクラスターだけを蒸着真空槽へ誘導するため、イオンガイドと四重極質量分析計を気相合成源に組み合わせた。また、測定対象のクラスターが高い活性をもつことを想定し、蒸着真空槽と光電子分光装置を接続して一連の実験を真空一貫で行えるようにした。この装置を用いてタンタル金属原子内包シリコンクラスターTa@Si16の合成を試みたところ、m/Δm=65の分解能で1秒あたり3.2×10^9個の正イオンを合成することに成功した。この生成速度は1 cm^2のクラスター単層薄膜を3時間程度の蒸着時間で作製可能にするものである。 クラスター蒸着装置の基本性能を実現した後、Ta@Si16の正イオンをグラファイト(HOPG)基板上へ蒸着し、クラスター薄膜内における原子の化学的環境をX線光電子分光法(XPS)で評価した。得られたTa 4f, Si 2p由来のXPSピークの面積比はTa@Si16の原子数比1:16に対する理論値とよく一致し、精密にTa@Si16が質量選別・蒸着できることがわかった。またTa 4f, Si 2pのXPS信号はいずれも単成分の装置関数のみで再現でき、薄膜内におけるTa, Si原子の化学的環境が均一であることがわかった。さらにチャンバー内に酸素ガスを導入して酸化反応の進行をXPSで追跡したところ、Ta@Si16は異なる組成のTa-Siクラスターに比べて酸素に対する安定性が極めて高いことがわかった。これらの結果はTa@Si16がHOPG上でもシリコンケージ型構造をとることを示しており、担持させた金属内包シリコンケージクラスターの物性を分光学的に初めて評価できた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
表面担持した金属内包シリコンクラスターの電子状態の評価に向けて、初年度の目標に掲げていた「クラスター担持装置の開発・性能評価および最適な合成条件の検討」を達成できた。さらに本装置を用いてTa@Si16クラスター薄膜を作製しXPS測定を行うことで、クラスター由来の幾何構造・化学的反応性について考察できた。これらの成果は、担持クラスターおよびその複合体の電子状態を系統的に調べていく上で重要な基礎となる。一方、担持クラスターのフェルミ準位近傍の電子状態についても光電子分光測定による評価を試みたが、クラスター由来の電子構造を観測することはできていない。このことは今後の主な課題であると位置付けている。
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Strategy for Future Research Activity |
担持クラスターの価電子帯の電子構造、および励起電子のダイナミクスについての解明を進める。具体的にはXPSに加えて紫外光電子分光法を用いることで価電子帯の詳細な情報を観測し、二光子光電子分光法で励起電子のダイナミクスに関する知見を得ていきたい。前年度まででは価電子帯の電子構造を観測できていないが、最近発表された走査型トンネル顕微鏡によるクラスター表面の研究から推察すると、今回の問題はHOPG表面上でのTa@Si16の担持形態の均一性が制御しきれていないことに起因すると考えている。これらの知見をもとに、今後は基板の種類や蒸着条件を検討し、これらの課題の解決に取り組んでいく予定である。
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