2014 Fiscal Year Annual Research Report
微量元素の濃度や化学状態に基づくバライト1粒を用いたEh-pH-温度計の開発
Project/Area Number |
14J06571
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Research Institution | Hiroshima University |
Principal Investigator |
徳永 紘平 広島大学, 理学研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2014-04-25 – 2017-03-31
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Keywords | Eh計 / pH計 / 共沈 / バライト / セレン / ヒ素 / 希土類元素 / 分配係数 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、バライト中に取り込まれた微量元素(セレン(Se)、ヒ素(As)、希土類元素(REE))の組成および化学種を併用することで、バライト1粒子から過去の詳細な地球化学的環境の復元を行う水質計の開発と利用を目的とする。平成26年度では、バライトへのAsの詳細な共沈メカニズムを分子レベルで解明の行い、申請者がこれまで研究してきたSeと同様にEh, pH計として用いることができるかの検討を行った。 バライト中のAsをEh計として用いるためには、バライト中のAs価数比が水中のAs価数比を反映することを示す必要がある。室内実験の結果、バライト中に取り込まれたAsの価数比は溶液中の価数比を強く反映して取り込むことが明らかになった。この傾向は異なるpH条件(強酸性温泉水:pH 2、海底熱水: pH 4、陸水・海水: pH 8、強アルカリ温泉水: pH10)においても同様に見られ、バライト中のAs価数比から溶液中の価数比の復元が可能であることが示唆された。またこれら異なるpH条件における価数別の分配係数は、pHに応じて異なる値を示した。これはpHに応じた溶存化学種の変動に対応しており、バライトのAsの価数別の分配比を用いた沈殿時のpHの復元可能であることを示唆している。次に室内実験での結果が天然においても同様に見られることを確認するため、高濃度のAsが溶存する強酸性温泉(pH 1.2)として知られている秋田県の玉川温泉にて沈殿したバライト試料に対して分析を行った。X線マイクロビームを用いた局所分析の結果、溶液中でAs(III)として溶存している玉川温泉において、AsはAs(III)としてバライト中に取り込まれていることが明らかになった。これらの結果からバライト中のAsの濃度や化学状態を用いることによって、バライト沈殿時のEh-pHの特定が可能であることが明らかになった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
平成26年度の成果より、バライト中のヒ素濃度や化学状態を用いることによって、バライト沈殿時のEh-pHの特定が可能であることが明らかになった。これらバライト鉱物中に取り込まれた微量元素を用いた古環境復元の手法の研究は国内・国際学会にて高い評価を受けており、平成26年度に行われたGoldschmidt conference 2014では招待公演に選ばれた。また、本研究成果は既に執筆済みであり、平成27年度中に国際学会誌に投稿する予定である。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は、バライト鉱物中の取り込まれた希土類元素を利用した温度計の確立を同様に行い、バライト鉱物中の複数の微量元素を利用したマルチ水質計の確立を行う。加えて、これらの水質計の応用を天然試料に対して行って行く予定である。様々な地域で採取したバライトに対して分析を行い、その価数比(Se(VI)/Se(IV)比、As(III)/As(V)比)と分配比(Se/As)から沈殿環境のEhとpHの復元を行う。またその希土類パターンから、還元的で高温の熱水か通常の海水や冷湧水のどちらの環境で沈殿したかといった沈殿時の温度の推定を行う。海洋の環境は、地球の進化と共に大きく変動してきており、これをバライト-セレン・ヒ素・希土類元素を用いたEh-pH-温度計が捕えられれば、今後の地球進化の研究に大きく貢献すると考えられる。
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