2015 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
14J07235
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Research Institution | Osaka City University |
Principal Investigator |
徳満 悠 大阪市立大学, 大学院文学研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2014-04-25 – 2017-03-31
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Keywords | 交通 / 関所 / 地域社会 / 南山城地方 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度はやや当所計画を変更し、南山城地域の史料検索、分析を行った。特に南山城地域に関係する交通事例の収集と分析は本研究の達成に不可欠であるため、重点的に取り組んだ。 まず、南山城地域の交通実態の史料収集・分析として、南山城地域(相楽郡・綴喜郡・久世郡)内を貫いて奈良・京都を結ぶ奈良街道について、当時人々がどのように移動していたのか、事例を収集した。収集にあたっては恒常的な往来を観測すること、定量的な分析を視野に入れることなどを考慮し、興福寺関係者の記した日記史料を中心に行った(『経覚私要鈔』『大乗院寺社雑事記』など)。これに加え『実隆公記』や『後法興院記』など、京都と奈良、南山城地域を往来することの多かった公家の日記も検索対象とした。 この結果、15 世紀後半において一定数の事例を検出し、これらを分析することで、水路・陸路の複数系統存在した奈良・京都間の交通は、木津川東岸の街道を中心に利用されていたことが、具体的な数値を元に明らかになった。 次いで、15 世紀後半の新関と地域社会の関係について分析を加えた。関所については「新関」「本関」の二種類が見られたこと、設置する主体や、知行する主体が異なっていたことなどが明らかになった。また、具体的な徴収額や賦課の対象にも着目し、その実態について分析を行った。 ここから、地域住民による経済的利益追求の結果である一方で、地域を貫通する交通を阻害し住民から忌避されるという、関所が持つ二面性や、複雑な地域社会との関係について明らかにすることができた。また従来は、琵琶湖や淀川といった水上の関が中心に論じられ、かつ中世の一般的な関所として敷衍されてきた。しかしながらそれは、必ずしも様々な関所の実態を取り入れたものではなかった。本年度の研究成果は、これらの関所研究が持つ問題点を克服する一つの要素となりうるものであり、今後も継続的に検討してゆく。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度の計画については若干の変更があったものの、最終的な研究課題を達成するために、必要な変更であった。特に都市と村落を結びつける街道について、昨年度の成果を継承し、具体的な通行事例やその総数を元にして分析を行うことができた点は重要な成果であったと考える。また関所についても、交通実態や関銭徴収の具体的な実態を収集・分析することで、従来論じられてきた関所とは異なる像を明らかにすることができた。 これらの成果については、日本史研究会中世史部会や都市史の専門研究会で口頭報告を行うと共に、同学会への投稿論文を執筆することができた。 一方、昨年度からの課題である大和・河内・摂津各国の史料検索、先行研究の調査・収集についても並行して進めることができた。一部の史料については、国立公文書館で史料撮影を行うなど、実際の収集作業も行った。また大和国の都市と交通については、仁木宏氏が研究代表者を務める「城下町科研」の「大和研究集会」に参加し、大和国内における都市・都市的な場、城下町について、最新の研究を学ぶことができた。特に交通との関係で発達した集落についての知見を得ることができた。 以上の研究に加え、各地にある様々な中世都市・街道を踏査することも行った。当時の都市空間がどのように展開していたか、街道や港など、交通とどのように接続していたのかを実際に確認することで、具体的なイメージを掴むことができた。 以上の点より、計画に変更があったものの、本年度の研究課題をおおむね達成することができたと考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
まず河内国、摂津国や大和国についての分析を順次進め、国内学会で発表するとともに、それぞれ学術雑誌に論文として投稿することを目指す。大和については中心都市である奈良と国内に散在する中小都市を中心に、周辺村落との関係について整理を行う。河内では富田林・枚方などの寺内町と周辺村落についての関係を、『興正寺文書』『枚方市史』『富田林市史』などを元に分析する。摂津では港湾都市尼崎とその後背に位置する長洲荘との関係を中心に分析を進める。ここでは『本興寺文書』『宝珠院文書』『法華堂文書』などの史料を中心に用いる。いずれの地域でも、計画時に挙げた史料や、これまでに検索した史料や先行研究を元にして研究を行う。 以上の事例を総括することで都市-村落関係をネットワークとして解明し、それらと権力の結びつきについて、畿内レベルでモデル化して提示する。その中で不足した史料は、随時諸機関で調査収集する。最終的には全ての研究内容を総括し、博士学位請求論文「中世後期畿内における地域社会―都市と農村の視点から―(仮)」として大阪市立大学へ提出する。
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