2015 Fiscal Year Annual Research Report
福祉国家の柱としての住宅政策--戦後日本の福祉国家の生成・発展・変容との関係から
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14J07256
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
佐藤 和宏 東京大学, 人文社会系研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2014-04-25 – 2017-03-31
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Keywords | 住宅政策 / 福祉国家 / 社会政策 / 住宅レジーム / 社会住宅 / 脱商品化 |
Outline of Annual Research Achievements |
・関東社会学会での学会発表(2015年6月):関東社会学会の自由報告部会にて報告を行った。昨年度から関わっている厚生白書を読む研究会での経験を基に、今後の発展的課題を明らかにすべく、厚生白書における住宅の扱い方を、まずは初歩的な単語検索など/厚生省から見た住宅政策の知識などを整理しながら、報告を行った。建設省の住宅政策観の批判とそのオルタナティブとしての政策の構想を深化・具体化するうえで、有益なアドバイスを先生方からいただいた。 ・日本社会学会の学会発表(2015年9月):日本社会学会では、7月から9月にかけておこなった不動産業への質的調査を踏まえて、学会発表を行った。シェアハウスに住まざるを得ない人々にとって初期費用がネックになっているという先行研究に基づいて、初期費用のひとつである礼金は、それ自身法的にあいまいなものでありながら、それが不動産業にとって管理費あるいは宣伝費に用いられているという知見を報告した ・『書評ソシオロゴス』刊行(2015年12月):筆者が2015年10月に投稿した論文が掲載されている雑誌が刊行(ネット公開)された。昨年末ケメニー『ハウジングと社会理論』が翻訳されたため、本書の意義を、①ハウジング研究の再帰性、②イデオロギーによる住宅政策の分岐、としたうえで、筆者の目的意識に照らして、①日本におけるハウジング研究の可能性、②福祉国家研究への住宅政策研究の接合、についてまとめた ・二次分析研究会での口頭発表(2016年3月):1960年代に東京大学社会科学研究所と神奈川県民生部が共同調査した社会福祉調査の再分析を行う研究会プロジェクトにて、筆者は1960年代の社会調査と社会学の関係についての口頭発表を行った。データそのものの復元から二次分析を行う試みの可能性とともに、住宅政策と社会保障政策あるいは政府間関係との関係性についてのコメントをいただいた
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
住宅においては、特に社会政策との関連での、研究蓄積が豊富とはいいがたい。しかし、近年流行している福祉国家と関連付けた住宅政策や、住宅政策の国際比較といった枠組みからの研究は重要であり、社会政策としての住宅政策を考えるうえでこれらは重要な先行研究と言える。これはいわば、住宅政策研究の横の比較である。これは昨年度からの継続的な課題である。 他方、住宅政策研究が包括されるところの、住宅市場も重要である。先行研究においては、住宅保障システムという言葉において、個人・世帯の住宅獲得・維持に必要な制度や慣習を指し、そのシステムのあり方によって住宅獲得のあり方が規定される、と考えられている。そこにおいては、供給側である家主や不動産業の視点も重要である。これらについて取り組んでいることは、まだ必ずしも成果として発表していない部分も含め、住宅政策の可能性を大きく広げるものだと思われる。 今年は、昨年度の家主の質的調査に引き続き、不動産屋への聞き取り調査を行い、それを学会発表・論文投稿を行った。残念ながら、その結果は不掲載であったため、その意味において、筆者の力不足であった。しかし、査読者の先生からいただいたコメントなど、住宅政策研究における分析のための諸ツールを用いるうえで有用であった。 本年度の総括は、まず第一に、建築助成のためには、家主調査だけでは不十分であるということであり、また第二に、賃貸住宅における入居拒否をはじめとする入居差別もまた、家主調査だけでは不十分である、ということであった。これらのためには、上記に述べた国際比較からする、建築助成・入居拒否対策の知見が求められると思われ、また日本社会のインプリケーションのためには、家主・不動産(業界団体を含む)・行政の関係性が重要である、と考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
今後の研究としては、大きくは2つある。日本の住宅政策研究のレビューと、住宅政策の国際比較のレビューである。 第一に、日本の住宅政策研究のレビューである。上記にも指摘した通り、社会政策的・福祉国家的な観点からの研究が豊富ではない、とする指摘は、実はかなり一面的である。それというのも、第一に、福祉一般が厚生省によって担われ、住宅が建設省に担われてきたという官庁セクショナリズムや、あるいは戦後の圧倒的な住宅不足の下での、借家人保護のために借家法の判例が蓄積されたことなど、政策的・社会問題的背景から、社会政策以外の領野に研究蓄積が豊富である。その意味では、狭い意味で社会政策的あるいは社会学的でなくとも、住宅政策研究に内在したうえで、どのような問題意識の下で議論が蓄積されたのか、について整理する必要がある。 第二に、住宅政策の国際比較である。福祉国家における住宅政策という視座の下、ここ十数年で住宅政策の国際比較は豊富な研究蓄積を有している。日本とヨーロッパを比較するに際して、現時点での結論は以下のようなものである。すなわち、労働運動の形態によって、脱商品化のベクトルが異なる、というものである。なぜ脱商品化の大小が問題になるのか、という問いを立てたとき、社宅が脱商品化との関係から焦点化されるという問題設定の問題こそを焦点化すべきである。あくまで理念型であるが、ヨーロッパにおいて産業別労働組合が、社会民主主義政党を媒介にして、社会保障を結実させていったのに対して、日本においては企業別組合が、企業の生産性向上に伴ったパイの分配を媒介にして、年功賃金と企業福祉を強化させて至った、とするのであれば、これが脱商品化のあり方に結実した、とする。
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Research Products
(3 results)