2015 Fiscal Year Annual Research Report
キルケゴールのキリスト教思想とデンマーク啓蒙:H.N.クラウセンとの比較を中心に
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14J07420
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Research Institution | Otani University |
Principal Investigator |
須藤 孝也 大谷大学, 文学部, 特別研究員(PD)
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Project Period (FY) |
2014-04-25 – 2017-03-31
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Keywords | キルケゴール / H.N.クラウセン / 啓蒙 / 宗教と啓蒙 / デンマーク / 19世紀 / 歴史哲学 / プロテスタンティズム |
Outline of Annual Research Achievements |
2015年度に実施した研究は、①H. N. クラウセンに関する研究、②キルケゴールと啓蒙の関係に関する研究、③啓蒙に関する研究に大別される。 ①の中心は、ヨアン・ラーセン『H. N. Clausen:その人生と功績』の分析を進めることであった。現在は、第3部まで読解を終えている。本書は、クラウセン思想の内容と変遷を描き出すのみならず、当時のデンマーク思想界におけるその他の二人の巨人、J. P. ミュンスターとN. F. S. グルントヴィとも詳細に比較対照している。さらにまた、当時のデンマーク社会における三者のポジションや果たしていた社会的枠割についても詳述している。 ②については、文献研究のみならず、研究センターでの研究会を中心として、様々な研究者と積極的に意見交換を行った。特筆すべきは、ヨアキム・ガーフ教授から得るところが多かったことである。また、アーネ・グロン教授のゼミからも、キルケゴールと啓蒙の関係を考えるにあたって、得るところがあった。 ③については、特にカントとアドルノに関して検討した。カントの『普遍史の理念』には、啓蒙に典型的な発展の図式が見出される。ここにはキリスト教の摂理信仰からの連続性が見出される。しかしながら、発展のイメージに関しては、キルケゴール思想との遠さも見出される。 また、キルケゴールは「啓蒙の道具によって啓蒙を非難した」というアドルノの議論は、キルケゴールと啓蒙の捩れた関係をうまく表現している。アドルノとキルケゴールの研究を専門に行っている吉田啓介さんに解説をお願いしながら、アドルノの「理性と啓示」について検討した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初、2年目に計画していた資料(Henrik Koch, Den danske idealisme, Kbh, Gyldendal, 2004、 Paul Victor Rubow, Kierkegaard og hans samtidige, Kbh, Gyldendal, 1950、Encounters with Kierkegaard : a life as seen by his contemporaries, ed. by Bruce H. Kirmmse, Princeton, Princeton UP, 1996)は分析を終えることができた。 さらに先に進み、Soeren Holm, H.N.Clausen: Bidrag til en Karakteristikの分析も終えることができた。他方、Joergen Larsen, H.N. Clausen: Hans Liv og Gerning, Kbh, Gad, 1945については、予想以上に時間がかかってしまった。8割がた分析を終えているが、残りは平成28年度に分析することになった。
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Strategy for Future Research Activity |
5月にキルケゴール研究所にて研究発表を行う。そこで、その時点までの研究成果を発表し、クリティカルな議論を行う。それを踏まえ、修正すべきところは修正し、足りないところを補い、9月をめどに論文に仕上げる。それを「キルケゴール・スタティーズ・イヤーブック」に投稿する。 主要な分析資料は、ヨアン・ラーセンの『H.N.クラウセン:その生涯と功績』の第4部以下、『セーレン・キルケゴール・スクリフター』のクラウセンに関するコメンタールである。前者は、セーレン・ホルムのクラウセン研究と双璧をなす、これまでに発表されたクラウセン研究のうち最も詳細なものである。後者には、キルケゴールとクラウセンの実際的、具体的関係が記述されている。 さらに19世紀デンマークにおいて活躍した、他の啓蒙思想家についてもある程度の研究を行う。主な思想家としては、N. F. S. グルントヴィを挙げることができる。キルケゴールとグルントヴィの関係については、デンマークには大きな研究の蓄積があるため、必要に応じて参照する。 平成26年度と平成27年度の研究によって、クラウセン思想の内容、およびキルケゴールとの関係については8割がた解明することができた。平成28年度においては、その結果をどのように分析するのかが主たる作業となる。哲学、思想史、宗教学、神学といった諸分野を横断しながら、多角的かつ詳細に考察を進めたい。 その際には、啓蒙、ないし啓蒙と宗教をめぐる議論一般が参考になる。主要なものとしては、テオドール・アドルノの議論、および啓蒙をめぐるユルゲン・ハーバーマスとジャック・デリダの対話は参考に値する。サブ研究としてではあるが、積極的に取り組みたい。
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Research Products
(1 results)