2014 Fiscal Year Annual Research Report
犬バベシア症に対するアトバコンを中心とした治療方法の確立とその作用機序の解明
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14J07525
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Research Institution | Obihiro University of Agriculture and Veterinary Medicine |
Principal Investigator |
井口 愛子 帯広畜産大学, 原虫病研究センター, 特別研究員(PD)
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Project Period (FY) |
2014-04-25 – 2016-03-31
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Keywords | Babesia gibsoni / アトバコン / 酵素活性測定 / ミトコンドリア |
Outline of Annual Research Achievements |
Babesia gibsoniが引き起こす犬バベシア症に対しアトバコンを用いた治療方法は有効であると考えられる。アトバコンは広い抗原虫活性を持ち、マラリア原虫に用いた際ミトコンドリア膜電位を崩壊させ、さらにピリミジン合成に必須であるdihydroorotate dehydrogenase (DHODH)活性の抑制を起こすことが報告されている。本研究においてはアトバコンのB. gibsoniミトコンドリア膜電位およびDHODH活性に及ぼす影響を評価し、さらに多剤併用によるその影響への作用を探求する事を目的とした。 マラリア原虫においてはミトコンドリア膜電位測定法ならびにDHODH活性測定法が報告されているが、それらのバベシア原虫における検討はほとんど報告されていなかった。その中、申請者が所属する研究室において牛バベシア症を引き起こすB. bovisにおいてマラリア原虫と同様のDHODH活性測定法が応用可能であることが報告された。当初申請者が計画していた方法は間接的にDHODH活性を測定するのに対しこの方法は原虫のDHODH活性を直接的に測定する事ができる。そのため、この方法がB. gibsoniにおいても応用可能かを検討し、薬剤による酵素活性への影響を調べる事とした。 バベシア原虫はマラリア原虫と同じアピコンプレックス目に属するが、その生活環、解剖学的構造、あるいは代謝機構が大きく異なる。そのため、アトバコンの作用機序も異なる可能性がある。それぞれの原虫における作用機序を探索する事は特異的な治療方法を探求する事に繋がり、新たな薬剤標的器官の検討にもつながると考えられ、とても重要である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
DHODH活性測定を行うにあたり、まずB. gibsoniのDHODH(BgDHODH)領域の確定を行った。続いてリコンビナント蛋白を作成し、その酵素活性を評価するとともにDHODH阻害剤による酵素活性阻害効果の評価を行う事とした。 BgDHODHのオープンリーディングフレーム(ORF)は1,227bpであり、409アミノ酸をコードする事が明らかとなった。現在、その領域を基にリコンビナント蛋白の精製を行っている段階である。グルタチオン-S-トランスフェラーゼ(GST)を用い融合タンパクとして発現させることを目的としている。予備実験において精製したGST融合DHDOHタンパクは可溶性であり、およそ45kDaであることが確認できている。また、DHODH阻害剤による酵素活性阻害効果の評価を行うにあたり、DHODH阻害剤のB. gibsoni増殖抑制効果を評価した。本研究室において野生型B. gibsoni培養株(WT;青森分離)およびアトバコン耐性B. gibsoni培養株(ATV-R;in vitroにおいてATV暴露により作成。アトバコン感受性の低下を示し、ミトコンドリアチトクロームb領域にアミノ酸置換を伴う一塩基多型M121Iを有する)を維持している。これら両培養株に対しマラリア原虫においてDHODH阻害剤として報告のあるルメファントリンおよびトリアゾピリミジンの増殖抑制効果を評価した。薬剤添加培養液を用いて144時間培養した後、50%増殖抑制濃度(IC50)を算出した。ルメファントリンは両培養株に対し増殖抑制効果を示し、WT、ATV-Rに対するIC50は各々87.6 ± 19.7 μMおよび98.8 ± 42.3 μMであった。一方、トリアゾピリミジンは暴露最高濃度500μMにおいても増殖抑制効果を示さなかった。
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Strategy for Future Research Activity |
今後はBgDHODHのGST融合蛋白を精製し、その活性ならびにDHODH阻害剤による活性阻害効果を評価していきたいと考えている。2,6-dichlorophenol-indophenol(DCIP)を基礎に吸光度600nmを測定する。GST融合DHODH蛋白を含む試液と含まない試液の吸光度を測定し、DCIP減少度を計算する事でDHODH活性を測定する。酵素活性の測定に成功した場合、これまでの研究に基づいて、ルメファントリンを試液に100μM加えたものと加えていないもので酵素活性の差異が認められるかを検討する。 マラリア原虫においてアトバコンがミトコンドリア膜電位崩壊を起こすことが報告されていることから、バベシア原虫においても同様の作用があるかを調べる予定であった。しかし予備実験によりマラリア原虫で用いられている方法の応用は困難であることが示唆された。そこで、アトバコン耐性原虫に対する対策としてこれまでに研究されていない新規薬剤標的を探索する事を目的に以下の研究を企画した。 近年、マラリア原虫においてイソペテニル二リン酸(IPP)の精製は生存に重要であり、非メバロン酸経路によって合成されていることが明らかとなった。この経路を司る律速酵素の一つである1-deoxy-D-xylulose-5-phosphate reductoisomerase (DXR)を標的としたホスミドマイシン(既存の抗生物質の一種)は、マラリア原虫を効果的に殺滅できる事が明らかとなった。DXRは哺乳類には存在しないことからDXRを標的とする治療薬は人と動物に副作用なく用いる事が可能である。これら酵素およびその阻害剤の検討はバベシア原虫においてはこれまで行われていない。犬バベシア症の治療戦略を考えるにあたり、アトバコンのみならず新規薬剤標的を探索する事が求められると考え、本酵素に着目しその解析を試みる事とした。
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