2014 Fiscal Year Annual Research Report
社会資本としての親族:ネパール、グルン社会の先住民運動に関する社会人類学的研究
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14J07635
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Research Institution | Tokyo Metropolitan University |
Principal Investigator |
吉元 菜々子 首都大学東京, 人文科学研究科, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2014-04-25 – 2016-03-31
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Keywords | ネパール / 親族 / 先住民運動 / 社会人類学 / 民族誌 / グルン / データベース / 国際研究者交流 |
Outline of Annual Research Achievements |
平成26年度はネパールに拠点を置き、フィールド調査を中心とした研究活動を行なった。前半期は予備調査と位置づけ、中央ネパールの中間山地に点在するグルンの村落を複数訪問し、言語、居住形態、村落規模等の基礎的情報の収集を行い、地域による差異を確認した。また調査地選定のための予備調査と並行して、カトマンズやポカラといった都市部を拠点に、グルンの人々が展開する先住民運動に関する調査を行った。この調査により、多数存在するグルンの民族協会それぞれの特徴を把握するとともに、しかし様々に異なるグルンの民族協会の活動においても共通する問題意識があることがわかった。 後半期は、前半期に行った調査地選定のための予備調査を踏まえて主に拠点とする調査村を決定し、居住地を調査村に移して調査研究を行った。村落において主に行ったのは、調査村の基本情報を収集するための集中的な人口調査である。この人口調査により、村内の人口、民族/カースト別人口、世帯数等の基本的な人口構成に関する情報を得るとともに、この村では結婚後、一定期間、妻は生家にとどまり、夫が妻の家へと訪問する妻訪婚の慣習があることがわかった。また、人口調査と並行して葬送儀礼、婚姻儀礼、祖先崇拝儀礼の観察・調査を行い、これらの儀礼における親族動員のありかたを把握し、さらに儀礼においては血縁的つながりのみならず、地縁的つながりが非常に重要であることがわかった。妻訪婚および地縁的つながりの重要性に関してはこれまで先行研究において言及されてきておらず、地域研究的貢献が期待できる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
調査地であるネパールにおいて調査研究を行った平成26年度は、主に調査地選定のための予備調査、調査言語の習得、および調査村に関しての基礎的なデータ収集に従事した。 調査地選定のための予備調査では、文献等の資料からでは知り得なかった現地の政治的状況などについての情報を得、その情報により適切な調査地を選定することができた。 調査言語であるグルン語の習得は年間を通して継続的に行い、現時点では日常会話が可能な程度まで上達している。グルン語の習得によって、簡単な調査であればネパール語ではなくグルン語で行えるようになっただけでなく、調査地住民との良好な関係性の構築に役立っており、ネパール語によって調査を行っていた初期と比べて、調査地住民の多くの語りを聞くことに成功している。 また、平成26年度の調査においてもっとも大きな成果は、調査村の全世帯について行った人口調査である。この人口調査により、村内の人口、民族/カースト別人口、世帯数等の基本的な人口構成に関する情報を得、調査村の基礎的データの収集が完了したのみならず、今後どのような場面においていかなる範囲の親族もしくは非親族が動員されているのか、ということを把握することが可能になった。先住民運動における親族の動員のありかたを探る本研究にとって、この基礎的データは根幹をなすものであると言える。以上の調査により、本年度の調査研究に必要な調査地選定、人間関係の構築、言語習得、基礎的データ収集が完了し、現時点で調査研究は順調に進展している。
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Strategy for Future Research Activity |
平成27年度も前年度に引き続き、調査地であるネパールを拠点とした調査研究を行う。当初、グルン研究の薄いゴルカ郡のグルン村落において調査を行う予定であったが、当該地域においてはグルンの言語や文化をめぐって政治的問題が発生していること、および本年4月にネパールにおいて発生した地震の影響を鑑み、前年度に引き続きカスキ郡のグルン村落にて調査を行うこととする。 今年度は都市ではなく村落に拠点を置きつつ、都市部における先住民運動と村落での動きとの関連性を明らかにすべく調査を行う。前年度は都市と村落双方において調査を行い、それぞれのデータの収集を行ったが、今年度は村落に拠点をおきつつも、常に都市と村落双方を含みこむ視点からの調査を目指す。 また、前年度の調査により、調査村においては親族の血縁的つながりのみならず、地縁的つながりが様々な場面で非常に重要であることが確認できたため、村における先住民運動に関連した活動において、親族がいかに動員されるのかについて調査するとともに、非親族である地縁的つながりがいかなる役割を果たしているのかについても注目していく。 さらに調査と並行して、引き続き調査言語であるグルン語の習得をすすめる。すでに日常会話程度のグルン語を習得してはいるが、より込み入った調査をグルン語で行うため、および村人同士の会話の聞き取りの精度を上げるため、さらなる上達を目指す。さらには日常で用いられる言語に加え、儀礼において用いられる儀礼言語の習得も行う。
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