2015 Fiscal Year Annual Research Report
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14J07786
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Research Institution | Osaka City University |
Principal Investigator |
吉元 加奈美 大阪市立大学, 大学院文学研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2014-04-25 – 2017-03-31
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Keywords | 近世大坂 / 堀江新地 / 茶屋 / 遊廓 / 遊所 / 遊所統制 / 天保改革 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は、1前年度に引き続き『小林家文書』(大阪市立中央図書館)を分析し、御池通五・六丁目の社会構造全体の考察を深め、また天保改革の遊廓・遊所統制が両町に与えた影響を考察すること、2博士論文執筆にむけた史料調査を行うこと、を中心に行った。 1については、水帳を検討して家屋敷の区画の変化と家持の変遷を整理し、両町の展開の差異を明らかにした。 五丁目について「近世大坂における茶屋の考察―堀江地域を素材に―」(『部落問題研究』第211号、2015年4月)で指摘したことを踏まえ、六丁目の分析を行った。六丁目は、地形的条件に規定されて開発当初から小規模な家持の居宅が展開した。しかし居付家持の家屋敷売却がすすみ、18世紀半ばには町年寄をも他町の家持が務めた。文政期末に居付家持が町内の家屋敷を集積し、町内持の家屋敷は再び増加したが、家持町人の町中という内実は伴わないままであった。以上について、投稿論文として執筆中である。 また文政・天保期の六丁目の人別帳を素材に借屋人のあり様を分析し、それを踏まえてⅠ茶屋経営者が一斉に三ヶ所内の特定の家屋敷へ変宅すること、Ⅱ奉公人数の激減、という天保改革の遊所統制がもたらした変化を指摘した。この点を茶屋営業者の流入先となった地域と併せて考察し、天保改革が与えた影響を明らかにする。以上についても論文執筆にむけて準備している。 2については、新町遊廓内部の社会構造の分析にむけて遊廓案内や遊女評判記について出版年の異なる版本を収集した(早稲田大学図書館、岩瀬文庫)。茶屋に女性奉公人を供給する人々がもつネットワークを分析したことを踏まえて、難波新地などから岡山や広島などにもそれが広がっていたことを窺いうる史料を探索・収集した(岡山大学附属図書館、呉市役所文化振興課)。また上記以外にも、京都の遊廓社会を分析しうる史料の探索・収集も行った(京都府立総合資料館)。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度は、前年度の成果を踏まえて、(Ⅰ)御池通五丁目・同六丁目の社会構造を総体的に把握すること、(Ⅱ)博士論文執筆に必要な史料の探索・収集を進めることを課題とした。 (Ⅰ)については、両町に跨る茶屋密集区域(=“茶屋町”)の実態を検討し、4月に論文を発表した(「近世大坂における茶屋の考察―堀江地域を素材に―」、『部落問題研究』第211号、2015年4月)。その上で、『小林家文書』に残された水帳・人別帳の分析を行った。水帳の整理・検討によって、開発当初の五丁目には、開発された新地を資本の投下先とした富裕な家持町人によって、家屋敷経営を行いうる大区画の家屋敷が多く展開したのに対し、既存町域と開発地の境界に位置した六丁目では、小規模な居付き家持の居宅が展開したことを明らかにし、その後の展開の差異についても検討した。以上について、投稿論文として執筆中である。また文政期から天保期にかけての人別帳をもとに町内の家持町人・借屋人のあり様を分析し、それを踏まえて天保改革が両町に与えた影響を考察した。この点について、投稿論文としてまとめることにむけて準備を進めている。 (Ⅱ)については、前年度に引き続き新町遊廓内部の社会構造を分析しうる史料の探索・収集を進めた。また、大坂の遊所のもつネットワークが、倉敷・御手洗町といった瀬戸内地域の都市にも及んでいることをうかがえる史料についても調査を行った。今後、史料の検討を進める。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は以下の三点を重点的に行う。まず1新町遊廓内部の社会構造に迫るべく、前年度・本年度に収集した史料の分析を本格的に開始する。また、2既に検討した堀江新地以外の「黙認」遊所も含む、“茶屋町”のもつネットワークを分析する。並行して、3大坂の事例と比較・検討を行いうる京都の遊廓社会について分析を開始する。 1これまで、九軒町の三ヶ条証文や佐渡屋町の人別帳をはじめとする遊廓内部の社会構造に迫りうる史料とともに、遊女屋・揚屋・茶屋の展開などを整理しうる、遊廓案内記である『澪標』や遊女評判記『つましるし』についても、出版年の異なる版本を収集した。以上を先行研究の成果を踏まえながら分析を進める。また、『大阪市史』3・4巻に収録されている町触を改めて整理・検討し、新町遊廓をめぐる統制の局面のみならず、祭礼との関わり方など可能な限り多様な側面について分析を行う。 2“茶屋町”のもつネットワークを堀江新地以外についても検討するために、道頓堀の元伏見坂町の茶屋経営者である伏見屋善兵衛家の文書(大阪市立大学学術情報センター所蔵)に残された奉公人請状のほか、遊女商売を行っていた女性が大坂出身であることを窺えた倉敷の売女摘発一件史料など、これまで収集した史料の分析を行う。同時に、堀江新地以外の「黙認」遊所について先行研究の成果を整理するとともに、難波新地一~三丁目の水帳(大阪商業大学商業史博物館所蔵)や、曾根崎新地の評判記である『北陽細見記』(岩瀬文庫所蔵)など若干確認できる史料についても検討し、考察を深める。 3大坂の分析から得られた研究手法を用い、京都の遊廓社会についても分析する。既に確認している京都府立総合資料館所蔵の『祇園内八町文書』などを中心に検討を行う。 最後に、以上の成果も含む研究を総括し、博士論文をまとめる。
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Research Products
(4 results)