2015 Fiscal Year Annual Research Report
強磁場顕微分光測定によるスピングラス転移メカニズムの解明
Project/Area Number |
14J08161
|
Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
澤田 祐也 東北大学, 大学院工学研究科, 特別研究員(DC1)
|
Project Period (FY) |
2014-04-25 – 2017-03-31
|
Keywords | 電気磁気光学効果 / 方向二色性 / スピングラス |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は,スピングラス磁性体NixMn1-xTiO3(x = 0.40 - 0.48)において,スピングラス相で存在が示唆される,スピンカイラリティが生むトロイダルモーメントが起源となる方向二色性を見出し,さらに強磁場中で顕微分光測定を行う装置の開発を行い,方向二色性による光の進行方向反転時における吸収強度の変化からスピンカイラリティの直接観測を行うことを目的とする.本研究によって,スピンカイラリティが秩序変数としてスピングラス転移が生じているというカイラリティ仮説の実証に期待ができる.前年度は,NixMn1-xTiO3(x = 0.40)単結晶を光が十分に透過する数十ミクロン程度まで薄片化し,我々が開発を行った強磁場透過分光装置と超伝導マグネットを組み合わせて定常強磁場中における光学測定を行った.本年度は,試料に互いに直交する電場と磁場を印加した状態で光学スペクトル測定を行えるような装置の改造を行った.スピングラス相におけるトロイダルモーメントを一方向に揃えて方向二色性測定を行うため,14 Tの磁場と200 Vの電場を印加し,常磁性相からスピングラス相へ徐冷(電磁場冷却)を行ってスペクトル測定を行った.また,光学系を変化させずに光の入射方向を反転させるため,電磁場冷却過程において電場を反転させ,トロイダルモーメントを反転させてスペクトル測定を行った.その結果,可視光領域の全域にわたって方向二色性が観測された.常磁性相において同様の測定を行ったところ,方向二色性は観測されなかった.また,電場依存性測定として電磁場冷却時の電圧を100 Vとして同様の測定を行ったところ,方向二色性の大きさが半分となる振る舞いが見られた.さらに,印加磁場の極性を反転させたところ,トロイダルモーメントの反転に伴うと考えられる方向二色性の反転も観測された.
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
これまで,NixMn1-xTiO3(x = 0.40)単結晶の,MPMSを用いた磁化測定,低温強磁場中における誘電率および焦電流測定を行い,過去の報告と合致する物性を示すことを確認した.また,この単結晶試料を光が透過する数十ミクロン程度まで薄片化し,可視光領域における光学スペクトルとその磁場依存性を明らかにした.本年度は,さらにこの試料に銀ペーストを用いて電極を取り付け,電磁場を印加した状態でスペクトル測定ができるように装置の改造を行った.この装置を用いて,スピングラス転移温度よりも十分に高い20 Kから4.2 Kまで,14 Tの磁場と±200 Vの直流電圧を印加しながら電磁場冷却を行い,電圧をゼロとしそれぞれにおける吸収スペクトルを測定,最後にスペクトルの差分を取ることで当該物質において方向二色性が存在することを確かめた.方向二色性は可視光領域の全域においてその存在が確認された.20 Kにおいて同様の測定を行った場合では方向二色性は観測されず,また,その大きさが電磁場冷却時における印加磁場によって変化することも確かめられた.さらに,印加磁場の反転によって方向二色性が反転する振る舞いも確認することができた.光学系の高い安定性によって再現性の高いデータが得られており,スピングラス相におけるトロイダルモーメントの存在を強く示唆する結果であると考えられる.従って,ここまで当初の計画通り進行していると判断する.
|
Strategy for Future Research Activity |
ここまで行ってきた方向二色性測定は,スピングラス転移温度よりも十分高い温度から低温にかけて電磁場中冷却を行った後に吸収スペクトル測定を行い,さらに同様の測定を電場を反転させて行い,それぞれのスペクトルの差分を取っている.互いに直交する電磁場が印加された状態では,この外場に起因する方向二色性が観測されることから,今回測定された結果が純粋にトロイダルモーメント起源で生じていることを証明するためには,完全に外場をゼロとした状態で測定を行う必要がある.現段階での方向二色性測定は,吸収スペクトル測定時に印加電圧をゼロとし,外部磁場のみを印加した状態で測定を行っている.従って,磁場もゼロとして測定を行った場合でも,同様の方向二色性が観測されると推測しているが,今後,実験的に検証していく予定である.また,方向二色性の磁場依存性や電場依存性も詳細に調べる予定である.さらに,高性能なピエゾステージを組み込んだ強磁場中で顕微分光測定を行う装置の開発を行い,方向二色性による光の進行方向反転時における吸収強度の変化からスピンカイラリティの直接観測を行うことも検討している.
|
Research Products
(6 results)