2014 Fiscal Year Annual Research Report
〈二世〉から見るブエノスアイレス都市社会の編成と変容:移民と市民の人類学的研究
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14J08713
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
石田 智恵 東京大学, 総合文化研究科, 特別研究員(PD)
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Project Period (FY) |
2014-04-25 – 2017-03-31
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Keywords | アルゼンチン / 移民 / 国家テロリズム / 二世 / 日系コミュニティ / 失踪者 |
Outline of Annual Research Achievements |
移民「二世」の経験からブエノスアイレス都市社会の編成を捉え直すことを目的とするプロジェクトの初年度は、日本人移民コミュニティを対象とし、1970~80年代の軍政期、民政へ移行期の「移民」の位置づけをA、Bの2つの論点から調査・考察し以下の進展があった。 【A】1970年代後半「プロセソ」軍事政権と「失踪者」問題については、①日系失踪者の親族、友人、かれらへの取材に基づくドキュメンタリー映画(2015年3月公開)の制作者など関係者への聞き取り(計25人)、②「日系社会失踪者家族会」のこれまでの活動についての資料収集、③「プロセソ」軍政下の市民弾圧とその後の国家・社会の取り組みを扱う「70年代の政治暴力」「国家テロリズム」等のテーマ群に関する学術研究、世論、公的・私的な各種取り組みに関する文献・資料収集とフィールドワーク(「記憶の空間」や「記憶をめぐるアーカイブ」などの公共施設訪問)を行ない、日系失踪者をめぐる事実関係を明らかにするとともに軍政期の「移民問題」の不在状況が日本人コミュニティに与えた影響を考察した。 【B】1980年代、民主化と経済危機の時代における社会変動については、①近年急速に研究・議論が進んでいるアルフォンシン大統領期(1983~1989年)の国家政策についての研究動向レビュー、②同時期の日系コミュニティの内部対立事件とそのなかでの「二世」の位置づけに関する聞き取り・資料収集、③軍事政権の援助を受けて建築されたブエノスアイレス日本庭園の設立経緯・過程、およびその他のコミュニティへの政府からの援助について資料収集を行ない、軍政期・民主化への移行期それぞれにおける移民政策、国家・地方政府と移民コミュニティの関係を考察した。 次年度に向けて、人類学的議論の再検討とこれらの調査結果をふまえて成果発表を進める。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
調査成果と成果発表の状況に加え、以下の見通しを得られたため。 ①「失踪者」とその「家族会」をめぐる同一性の問題を市民社会の親族研究として論じる見通しだけでなく、建国期以来、犯罪学や精神医学、移民論と近接しながら国民統治技術にも深くかかわってきたアルゼンチン独自の人類学史の延長線上に、「アルゼンチン法人類学チーム」による失踪者の「同一性回復」の取り組みを検討するという課題も浮かび上がった。これらの課題は人類学的議論への大きな貢献となると考えられる。 ②「失踪者」問題と「移民」という主題の関連については先行研究が希少だが、現地の研究者との交流からも重要な着眼点であることが確認された。とりわけ日系失踪者についてはわずかなジャーナリズムの成果を除いて記述がなく、アルゼンチン国内では事実がほとんど知られていなかったが、この点を取り上げたドキュメンタリー映画が2015年3月に公開され大きな反響を呼んだことからも、社会的関心の高い重要な主題であることが明らかになった。この映画の批評も含め、日系移民の独自の社会的位置を参照点とし、見過ごされてきたアルゼンチン的ナショナリズムの側面を指摘する見通しが得られ、現在成果発表を進めている。 ③2016年3月に最後のクーデターから40年を迎えるにあたり、アルゼンチンでの同テーマに関する歴史の見直しが高まっている。また軍政を経験した人々が高齢化し、「失踪者」の親世代にあたる人々への聞き取りが年々難しくなっている。加えて、テロリズムや人権問題をめぐる国際的な関心が高まり、日本国内でも軍のあり方や歴史認識は争点となっている。このように、当初の計画で想定した以上にアルゼンチンの「1970年代」「政治暴力」「人権問題」等のテーマの重要性と複雑さ、緊急性が明らかになった。当初の計画をやや変更する必要が生じたが、このテーマへの取り組みがより重要な研究になると期待できる。
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Strategy for Future Research Activity |
移民「二世」の視点からブエノスアイレス都市社会の編成と変容を明らかにするために、当初の計画では、出自の異なる「二世」の比較を行うことを主な研究方法としていたが、軍事政権期を含む過去の国家暴力に対する様々なアクターの取り組み、その展開と、「移民問題」の位置づけとの関連を主に調査することの重要性が明らかになった。そのため、イタリア系移民・ボリビア系移民の「二世」の状況については文献読解を続ける一方、日系移民コミュニティの転換期でもあった1970・80年代の「二世」と「失踪者」の問題についての調査を今後中心的に進め、日系「二世」の独自性を通じた記述を試みる。そのため、すでに行なった調査で得られた資料・文献の検討、これをふまえた成果発表を進めるとともに、必要に応じて再度現地調査を行なう。次回調査時に、聞き取り対象者に文字起こし資料を提供する。また、これまでの研究成果をアルゼンチンで出版する計画の具体化を進める。さらに、現地の研究者との共同執筆論文の刊行、国際学会でのパネル発表も計画している。
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Research Products
(4 results)