2014 Fiscal Year Annual Research Report
障害の社会モデルは精神障害を包摂しうるか -- 社会の生きづらさか病のつらさか
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14J08738
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Research Institution | Ritsumeikan University |
Principal Investigator |
白田 幸治 立命館大学, 先端総合学術研究科, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2014-04-25 – 2016-03-31
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Keywords | 精神障害 / 社会モデル / 当事者研究 / 精神病理学 / ナラティヴ / 再生 / ピア / 医学モデル |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は精神障害の生きづらさに関する理論研究の部分と精神障害者へのインタビューに基づく調査研究の部分に分かれるが、当然、両者は截然と区別できるものではなく重複がある。 本研究は、精神障害当事者である研究員が同じ生きづらさを抱える精神障害者の語りを基礎にして行う。精神医学は症状を詳細に記述してきた。症状は精神障害者の生きづらさに関連する。当事者が行うという意味で本研究は当事者研究であり、精神障害者の語りに基づくという意味ではナラティヴ研究でもある。本年度の理論研究は、これら三つを中心に進めた。 精神医学、なかでも精神病理学、そのなかでも現象学的精神病理学の理解と整理をした。当事者研究という点に関しては、わたしの生きづらさを研究の中心に置くとはどういうことなのかについて考察した。対話的構築主義の方法を参照して本研究のナラティヴ・アプローチとしての位置づけを整理した。 調査研究部分について本年度は方法論、とくに本研究がどういう調査法を採用するかの検討に重点を置いて研究を進めながら、並行して聴き取り調査を遂行した。方法論については聴き取り方法と聴き取りデータの分析方法について整理した。 本研究の基礎データは精神障害者への聴き取りである。インタビューに関して人権の保護及び法令等の遵守への高度の配慮が不可欠である。書面による協力の確認などの通例の手法がかえってインタビューイの緊張や不安を引き起こすことにつながる恐れがある。この点に関しては受入研究機関である立命館大学の「人を対象とする研究倫理審査委員会」事務局にアドバイスを受け、インタビューの冒頭で研究倫理について説明し、インタビューイの応答を録音するという手法を採用した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究の特質である当事者研究の視点から現象学的精神病理学およびナラティヴ研究について考察し、本研究の理論枠組みおよび研究方法についての方向性を確認することができた。それは本研究の独自性を固め得たということである。 当事者研究と名指されるほとんどは専門家の関与や専門知との協働を肯定している。それらと比較して、本研究でいう当事者研究の意味を再確認した。 精神障害者の内面により深く接近しようとする志向を持つ現象学的精神病理学は、正常人の経験を絶対視せず常識を括弧に入れ、エポケーという手法を用いて了解できないとされる精神障害者を分かろうとした。しかし、代表的論者である木村敏は精神障害をどのように規定するかに関して、「共通感覚」という正常者がわかち持つ常識を基底において、「共通感覚」から「個別性」をつくり出すことができない者を統合失調症者とした。木村もまた正常の世界の住人にしかすぎないということだ。 ナラティヴ研究に関しては対話的構築主義の方法論を検討した。桜井厚は経験を共有しない過去について聴き手は関与しないと論じるが、精神障害の生きづらさを共有する本研究のインタビュアーとインタビューイは今ここで過去を共同構築する。本研究のインタビュー方法論の方向を確定した。 インタビューに関しては、これまでに15回、実人数で13人の精神障害当事者への聴き取り調査を遂行した。年齢、性別、診断名、社会活動歴等の属性の違いにより、ある程度の類型化が導き出せた。
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Strategy for Future Research Activity |
今後はこれまでの調査結果を踏まえて、研究者自身の生きづらさの核である「自己と世界の喪失」を語る精神障害者にインタビューイを絞り込み回数を増やす方向で聴き取りをさらに進める。 研究方法について本研究の立場をより詳細にする。本研究の特色は研究者が精神障害当事者だという点であり、当事者が精神障害者に聴き取り調査をして、そこから得られたデータを研究の基礎とする点にある。ナラティヴ・アプローチに加えて、自己エスノグラフィー、ライフストーリー論なども参照して本研究のリサーチ・メソッドを確定する。それと並んでサーベイ・メソッドについても再検討の上、確立する。 これまで行ったインタビュー・データからは「精神障害者の生きづらさはディスアビリティにではなくインペアメントもしくは病いそのものにあり、精神障害者の生きづらさからの解放はピアとの共存である」という研究計画当初の仮説は論証されていない。ピアとの出会いよりも「社会」のなかでの自らの存在意味をもっている精神障害者ほど「再生」できている。これをどう考察するかが、今後の研究の中心課題である。ここでいう「社会」とは、社会モデルのそれとどう関係するのか、「再生」と「治癒」や「回復」はどう違うのかが中心論点である。社会モデルは障害をディスアビリティとしてとらえるが、精神障害はディスオーダーであるという観点を重視して考察する。 本年度は研究の進展に即して関連学会での発表や学会誌および受入研究機関紀要への投稿で具体化し、博士論文につなげたい。 人権の保護及び法令等の遵守への高度の配慮に関しては受入研究機関である立命館大学の「人を対象とする研究倫理審査委員会」に継続的にアドバイスを受ける。とくにインタビューの内容を論文に記載するに際して、録音のみで書面による協力の確認などの通例の手法を取る必要がないのか再度、検討する。
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Research Products
(1 results)