2014 Fiscal Year Annual Research Report
17-18世紀ハルハ=モンゴルの権力構造-政治・宗教・軍事の多角的検討を通して-
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14J08952
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
前野 利衣 東京大学, 総合文化研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2014-04-25 – 2017-03-31
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Keywords | モンゴル / ハルハ / 右翼 / 17世紀 / ザサグト=ハーン / ジノン / 権力構造 / 称号 |
Outline of Annual Research Achievements |
研究課題として掲げる17-18世紀のハルハ=モンゴルに関する従来の研究では、清と関係の深い左翼(東方)集団の解明が進み、本来の盟主たる右翼(西方)集団については、権力構造の基本的な枠組みさえ十分明らかにされていない。そこで今年度は、モンゴル最高ランクの地位称号「ジノン」を取り上げて、『清内閣蒙古堂档』等の档案史料を新たに用いて右翼の権力構造を考察した。 その結果明らかになった内容は、次の通りである。まず、「ジノン」という語には、複数存在可能な一般称号(の一部)を指し示す「ジノン号」と、一人だけが継承する地位としての「ジノン位」という二つの意味・用法がある。後者のジノン位は、ハーン位に準ずる推挙プロセスを経て、ハルハの始祖ゲレセンジェの次子ノヤンタイの孫コンコイの長子系と四子系出身者だけが継承していた。更に、歴代ジノンはハルハ有数の大部族たるベスド部の領主でもある点で共通している。おそらく、ジノン位とコンコイ家系の出自、及びベスド部領主の立場とが、互いに連動していたのであろう。以上の論証内容から、ジノン位が(従来の形骸化のイメージとは逆に)実質的に枢要な地位であったことが判明した。 それを踏まえて右翼全体を眺めると、歴代ハーン、ホンタイジ、ジノンがみなゲレセンジェ一門の特定家系から輩出していることがはっきりとみてとれる。17世紀後半の右翼とは、ハーン、ホンタイジ、ジノン家による三極構造をなす集団であったと考えられる。 本年度の研究により、ジノンに対する既存の認識を一新するとともに、とりわけ不明点が多い右翼の権力構造の大枠を解明することができた。この成果と左翼に関する従来の知見とを総合することで、新しいハルハ像の構築に寄与できるであろう。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度は、一定の研究成果をまとめて学会で報告することができた。また、更なる研究の発展のためにチベット語やロシア語の演習に力を注ぎ、当該言語の史料にアクセスすることができるようになった。さらに、夏にはモンゴル国に短期で文献調査に出かけ、必要な文献とモンゴル語でのコミュニケーション能力を得ることができた。 これらの成果によって、研究目的に対する本年度の進捗状況は順調であると判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
研究計画に従い、必要な多言語史料を精緻に分析するという方策で、世俗権力と仏教勢力の相互関係を実証的に解明する予定である。特に、これまで使用してきた満・蒙・漢文史料にとどまらず、チベット文・ロシア文史料をも用いる計画を立てている。それを通して、より緻密な分析と俯瞰的な全体像の描出に挑戦するつもりである。
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Research Products
(2 results)