2015 Fiscal Year Annual Research Report
Metarhizium属糸状菌における寄生能の多面性とその進化的背景の解明
Project/Area Number |
14J09097
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Research Institution | Forestry and Forest Products Research Institute |
Principal Investigator |
西 大海 国立研究開発法人 森林総合研究所, 森林昆虫研究領域, 特別研究員(PD)
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Project Period (FY) |
2014-04-25 – 2017-03-31
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Keywords | 昆虫寄生菌 / 根圏微生物 / Metarhizium / コガネムシ科 / 抗菌活性 / 根圏定着性 / 系統解析 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、Metarhizium属糸状菌の根圏定着能力の進化的背景の解明を目的とし、今年度は本属糸状菌の根圏定着能力の系統的起源および根圏定着を可能にする生理学的特徴の解明を試みた。根圏定着能力の系統的起源の解明のため、本属糸状菌の根圏定着能力の系統間比較を行った結果、宿主範囲の広いM. pingshaense (Mpi)とコガネムシ科選択的M. lepidiotae (Ml) がノシバ根圏での定着能力が高かった。Mlは供試菌株中でMpiに最も近縁でかつMpiよりも古く分岐した種である。MlとMpiの間に分岐した種にコガネムシ科特異的M. majus (Mm)も存在することから、これら3種の共通祖先はコガネムシ科特異的であると推察されるが、実験結果はその祖先種において根圏定着能力が獲得されたことを示唆していた。また属外の種も含めて植物クチクラに対する付着因子の遺伝子の保存性を調べる予定であったが、付着能力よりも抗菌活性能力が主要因子であると考えられたので、本年度は抗菌活性に関する実験を優先させた。 根圏定着を可能にする生理学的特徴の解明として抗菌活性能力および土壌の静真菌作用に対する性状を比較した結果、Mpi、Ml、Mmおよびその近縁種が貧栄養下でも高い抗菌活性をもつという性質が明らかになった。高い抗菌活性をもつことは,長期間土壌生活を営むコガネムシ科の幼虫に対して,多数の土壌微生物の存在下で感染を成立させることに寄与していると同時に,根圏定着を巡る微生物間の競争にも関わっている可能性がある。一方で土壌の静菌作用に対する本属糸状菌の性状については、供試菌株間での顕著な差異は認められなかった。本属糸状菌の植物根に対する侵入過程の解明も試みたが、植物クチクラへの貫入が観察される頻度は様々な条件で実験を行っても低く、本属糸状菌による内生的定着は起こりにくいと考えられた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
Metarhizium属糸状菌において、ノシバの根圏での密度が接種後に経時的に増加する系統と減少する系統を明らかにすることができ、その結果により根圏定着能力の起源として可能性の高い祖先系統を選定できたため。また、根圏定着能力において抗菌活性能力が重要であることを示唆する結果が得られたため。
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Strategy for Future Research Activity |
Metarhizium属のより多くの種の根圏定着能力を評価し、本属における根圏定着能力の起源をより詳細に解明する。根圏定着能力と抗菌活性物質産生能力および土壌静菌作用に対する性状の関係性を解明する。根圏定着能力の起源となる祖先種の昆虫宿主(現時点ではコガネムシ科である可能性が高いと考えている)への感染能力と根圏定着能力の共通性から、根圏定着能力の進化的背景を考察する。
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