2015 Fiscal Year Annual Research Report
線虫の嗅覚可塑性を制御するフェロモンシグナル伝達系の解析
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14J09130
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
鳥谷部 啓 東京大学, 理学系研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2014-04-25 – 2017-03-31
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Keywords | 線虫 / フェロモン / シグナル伝達経路 / TGF-β経路 / snet-1 |
Outline of Annual Research Achievements |
生物の行動決定には同種他個体との情報交換が重要であり、多くの生物はフェロモンを用いるが、物質の受容から行動までの一連の機構を詳細に解明することは難しい。線虫C. elegansは多様なフェロモンのレパートリーをもち、その機能も多彩であるが、神経細胞は302個と少なく、その接続もよくわかっており、遺伝学的知見も豊富である。線虫においてはフェロモンを介して嗅覚可塑性が制御されるという高次の神経機能制御機能が報告された(Yamada et al. 2010)。高密度培養下では培地中のフェロモン濃度が高く、このときASI神経におけるsnet-1神経ペプチド遺伝子の発現は低く抑えられる。逆に低密度下ではsnet-1の発現は上昇する。このsnet-1遺伝子の蛍光レポーターを利用し、化学変異原処理によりレポーター遺伝子の発現が異常に高くなるものを選抜したところ、daf-1/I型TGF-beta受容体遺伝子とその下流のdaf-14/R-SMAD遺伝子に変異をもつ2つの変異体を得た。daf-1やdaf-14はヒトまで広く保存されたTGF-β経路の構成因子である。下流因子についても変異体を用いてその表現型を調べたところ、既知の経路の関与因子とは異なることが示された。体内のどの細胞においてTGF-β経路が関与するのかについて変異体のレスキュー実験を行い、範囲を絞り込んでいるところである。本研究においてはTGF-β経路がフェロモンのシグナルをうけ、その後の体内での応答に重要な役割を果たしている可能性を示した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
本研究課題においてはフェロモン濃度に応じてsnet-1の線虫ASI神経細胞内の発現レベルが変動する現象に着目して、スクリーニングを行いTGF-β経路の遺伝子をはじめ、様々な経路の遺伝子を特定してきた。具体的にはカチオンチャネル経路、インスリン経路、TGF-β経路である。このうちTGF-β経路については既知の知見から予想される表現系と異なる表現型が観察され、本研究におけるTGF-β経路の分子機構を詳細に解析することにした。変異体のレスキュー実験を行ったが、TGF-β経路の受容体はどこの細胞で発現させてもASI神経のsnet-1蛍光レポーター遺伝子の発現を回復させることができた。TGF-β受容体は二量体化して活性化することが知られ、外部からの高濃度での遺伝子導入がTGF-β経路の異所的活性化、ひいては下流の分泌シグナルを活性化した結果、ASI神経におけるsnet-1発現を正常化させてしまった可能性が考えられる。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究課題を遂行するなかで、変異体のレスキュー実験において既知の研究のように外部から導入する遺伝子の発現レベルを考慮しない実験計画は機能しないことが示唆されるようになった。ゲノムへのシングルコピーでの遺伝子導入が求められ、CRISPRや線虫特異的な技術も知られているため、求められるレスキューラインは多いが発現レベルをコントロールしたレスキュー実験を行うことは技術的には可能である。
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Research Products
(1 results)