2014 Fiscal Year Annual Research Report
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14J09148
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
松田 孟留 東京大学, 情報理工学系研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2014-04-25 – 2017-03-31
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Keywords | 特異値縮小型事前分布 / ベイズ統計 / 縮小推定量 / 予測分布 / 縮小ランク回帰 / 点過程 / 知覚交替 / 脳波 |
Outline of Annual Research Achievements |
行列変数の正規分布における平均パラメータの事前分布として特異値縮小型事前分布を提案した。これはStein事前分布の自然な拡張になっていて、優調和性をもつ。特異値縮小型事前分布によるベイズ推定量は最尤推定量を二乗損失のもとで優越し、また特異値縮小型事前分布によるベイズ予測分布は一様事前分布によるベイズ予測分布をKullback-Leibler損失のもとで優越することを示した。特異値縮小型事前分布は平均パラメータの真の値が小さな特異値をもつときにリスクの改善が大きくなる。多変量線形回帰において回帰係数行列が低ランクになることが多い(縮小ランク回帰)が、特異値縮小型事前分布はこのような状況で特に有効である。数値実験によって、特異値縮小型事前分布のもつ以上の性質を確認した。この研究について、2014年7月に台湾で行われたims-APRMと2014年9月に本郷で行われた統計関連学会連合大会にて口頭発表を行った。 理化学研究所脳センターの北城圭一博士・山口陽子教授から提供いただいた実験データを解析した。ネッカーキューブという図形は2通りの解釈が可能であり、この図形をヒトが見ていると解釈が自発的に切り替わる。この現象を知覚交替とよぶ。本研究では知覚交替現象を点過程モデルによって記述し、その強度関数を脳波の特定の帯域(例:8-13Hzのα波)のパワーを用いてモデル化した。電極と帯域の組み合わせによって数百個のモデルが考えられるが、多重性を考慮したモデル選択によって知覚交替に関係をもつ脳部位と帯域を調べた。興味深い事実として、被験者に特定の解釈を意識するように指示した場合、意識していない方の解釈への知覚交替において脳波の有意性が増す(有意な電極が増加する)、という結果が得られた。この研究について、2015年1月に北海道で行われた「脳と心のメカニズム」ワークショップにてポスター発表を行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
Stein事前分布の自然な拡張として特異値縮小型事前分布を提案した。特異値縮小型事前分布の優調和性の厳密な証明が得られた。また、数値実験において、特異値縮小型事前分布を用いたベイズ推定量とベイズ予測分布の効率的な計算方法の開発に成功し、サイズの大きい行列変数に対する計算が可能となった。これにより、特異値縮小型事前分布が低ランクで特に有効であることを効果的に示す数値結果が得られた。よって、特異値縮小型事前分布は多変量回帰に有効であることが分かった。これらの成果をとりまとめ、国際学会と国内学会にて発表した。また論文を執筆し、投稿を完了した。 また、理化学研究所脳センターの北城圭一博士・山口陽子教授との共同研究を行った。知覚交替を点過程モデルによって記述し、脳波と知覚交替の関係について調べた。解析プログラムはすべて自前でMATLABで実装した。解析にあたり脳波の有意性検定の多重性が問題となったが、これを適切に取り扱う統計手法を考案し、実験データに適用した。その結果、知覚交替における注意のメカニズムに関して新たな知見を示唆する結果が得られた。この成果を神経科学のワークショップにて発表した。 以上の通り、当初の計画以上に進展しているといえる。
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Strategy for Future Research Activity |
非定常性・非ガウス性を有する時系列データとして、脳波やLocal Field Potentialなどの神経電位時系列がある。神経電位時系列は、高周波数成分のパワーが低周波数成分の位相に同期して増減する、という特徴をもつことが近年明らかにされており、phase-amplitude couplingとよばれている。この現象が神経活動間の協調を反映しているという実験結果が報告されており、海馬におけるtheta帯域とgamma帯域の間のcouplingはその典型例である。このような時系列の解析に有用な手法の開発を目指す。 研究にあたって、まず時系列の位相の定義が問題となる。脳信号処理の分野では、周波数フィルタリングとヒルベルト変換を併用して信号の位相を計算している。本研究では、背後に時系列モデルを仮定した形で位相を計算する手法を考案中である。複素数を状態ベクトルとした状態空間モデルによるアプローチを試みている。これは、振動子に微小ノイズがのるランダム周波数変調の考え方に沿っている。Wienerがα波について論じた際にも本質的にランダム周波数変調の描像を用いている。また、スペクトルのみならず位相の情報も記述できる時系列モデルの開発も行う。ガウス時系列では各周波数帯域の位相は独立に0から2πの間を一様分布するので、非ガウス性が不可欠となる。さらに、phase-amplitude couplingのような現象をモデル化するには非定常性も不可欠といえる。
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Research Products
(5 results)