2015 Fiscal Year Annual Research Report
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14J09148
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
松田 孟留 東京大学, 情報理工学系研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2014-04-25 – 2017-03-31
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Keywords | 状態空間モデル / 位相リセット / ヒルベルト変換 / 振動子 / 特異値縮小型事前分布 / Pitman closeness / ベイズ予測 / 神経電位 |
Outline of Annual Research Achievements |
昨年度より行ってきた特異値縮小型事前分布に関する研究をとりまとめ、論文がBiometrika誌に受理された。また、この成果について2015年6月にバレンシアで開かれたベイズ統計に関する研究集会O-Bayes15でポスター発表し、ポスター賞を受賞した。本研究で構成した事前分布は優調和性をもち、正規分布の平均ベクトルに対するSteinの事前分布の行列パラメータへの自然な拡張といえる。この事前分布に関する研究は今後も継続していく予定である。 2016年1月~2月に統計的決定理論の権威であるRutgers大学のStrawderman教授を訪問し、共同研究を行った。点推定の理論において、Pitman closenessという推定量の比較規準がある。共同研究ではPitman closenessの概念を予測分布の比較に拡張し、正規分布モデルにおける性質を調べた。成果を2本の論文にまとめ、ともにStatistics & Probability誌に受理された。 新たに時系列の周期成分分解と位相推定に関する研究を開始した。信号の位相が生理学的に重要な意味をもつことが近年明らかにされてきている。従来はバンドパスフィルタリングとヒルベルト変換によって位相を推定しているが、この方法では観測ノイズやフィルタリング方法によって結果が不安定になってしまう問題が神経科学の文献でも指摘されている。そこで本研究では、状態空間モデルに基づいた信号の位相推定手法を開発した。提案手法は神経電位時系列に限らず一般の時系列に適用可能であり、たとえば黒点時系列データが位相リセットを示すという興味深い現象を見出すことができた。この研究について、2015年9月に岡山大学で開かれた統計関連学会連合大会にて口頭発表を行い、コンペティション部門の最優秀報告賞を受賞した。また、論文がNeural Computation誌に受理された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
特異値縮小型事前分布に関して、論文を完成することができた。本研究で構成した事前分布は優調和性をもち、正規分布の平均ベクトルに対するSteinの事前分布の行列パラメータへの自然な拡張といえる。また、論文を書く過程で新たな事前分布の着想が得られた。 Rutgers大学のStrawderman教授との共同研究を2本の論文にまとめることができた。この研究によって、Kullback-Leiblerリスクとは異なる規準のもとでも、優調和事前分布が一様事前分布よりも良いベイズ予測分布を与えることが確認できた。 新たに時系列の周期成分分解と位相推定に関する研究を開始して、原理の考案、プログラムの実装、論文の執筆を達成することができた。脳波やLocal Field Potential などの神経電位時系列は、その位相が生理学的に重要な意味をもつことが近年明らかにされてきている。従来はバンドパスフィルタリングとヒルベルト変換によって位相を推定しているが、このような推定法では観測ノイズやフィルタリング方法によって結果が不安定になってしまう問題が神経科学の文献でも指摘されている。そこで本研究では、状態空間モデルに基づいた信号の位相推定手法を開発した。Wienerのランダム周波数変調の発想をもとに構築した線形ガウス型の状態空間モデルを用いて、時系列データを複数の周期成分に分解する。その結果、各成分の位相が推定できる。状態空間モデルのパラメータは経験ベイズ法によって、周期成分の個数は情報量規準ABIC の最小化によってデータから自然に定められる。提案手法は神経電位時系列に限らず一般の時系列に適用可能であり、たとえば黒点時系列データが位相リセットを示すという興味深い現象を見出すことができた。
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Strategy for Future Research Activity |
特異値縮小型事前分布を改善する事前分布の着想が得られたので、これについて研究を進める。具体的には、各特異値の縮小に加えて、行列全体に対するゼロ行列の方向への縮小、あるいは行列の各列ベクトルに対する原点方向への縮小を追加することで、もとの特異値縮小型事前分布を改善できる可能性がある。リスクの解析的な計算により、推定および予測におけるこれらの事前分布の性能を調べていく。また数値実験も並行して行っていく。 線形回帰におけるベイズ予測分布を数値的に計算する方法に関して着想が得られたので、プログラムを実装して性能を調べていく。この手法により、特異値縮小型事前分布や上で議論した事前分布を多変量線形回帰に適用することが可能となる。特に、実データの予測におけるこれらの事前分布の性能を評価できるようになる。これにより、本研究で構成した事前分布の優位性が、理論保証のみならず応用上の観点からも示されることが期待される。 時系列の周期成分分解と位相推定に関する研究を拡張し、多変量時系列まで取り扱えるようにする。拡張にあたっては、状態空間モデルの観測モデルを適切に変更することになる。この拡張により、神経電位データをはじめとしたさまざまなデータに対して、データの背後に潜む振動子を抽出することが可能となる。 初年度より行ってきた脳波データの解析に関する研究を論文にとりまとめる。この研究は理化学研究所脳センターの北城圭一博士・山口陽子教授との共同研究である。図形の解釈が自発的に切り替わる知覚交替という現象を点過程モデルによって記述した。実験データの解析の結果、被験者が特定の解釈を意識しながらネッカーキューブを見た場合、意識していない方の解釈への知覚交替を後頭野のアルファ波が抑制するという知見が得られた。この結果を既存の神経科学の知見と照らし合わせて考察し、神経科学の論文として発表することを目指していく。
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