2015 Fiscal Year Annual Research Report
陸上植物の祖先種とアツギケカビ目における菌根共生機構と共進化過程の解明
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14J09199
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Research Institution | Shinshu University |
Principal Investigator |
山本 航平 信州大学, 総合工学系研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2014-04-25 – 2017-03-31
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Keywords | アツギケカビ目 / 分類 / 外生菌根 / コマチゴケ |
Outline of Annual Research Achievements |
菌根菌類の中でもとりわけ祖先的な系統に属するアツギケカビ目の間の共生関係の解明に向けて、分類体系の構築、菌根形態の観察、ならびに接種試験を行った。その結果、以下の成果を得た。 1.PCRプライマーの設計などの結果、アツギケカビ目胞子果のDNA配列の蓄積が飛躍的に進行し、本目では初めて、核・ミトコンドリアの複数遺伝子領域に基づく系統解析が可能となった。解析の結果は、胞子形態で識別できる複数系統の存在を強く支持した。また、既知種と形態は類似するが種レベルで異なる系統の存在が複数明らかになり、ハーバリウム標本などの再検討の必要性が示された。 2.ブナ科樹種の外生菌根を天然土壌より採集し、形態観察と分子同定の両結果に基づき共生菌がアツギケカビ目であると同定した。温帯域の主要な樹種であるブナ科と菌根を形成するという事実は、外生菌根菌の多様性調査においてアツギケカビ目が長らく見過ごされてきたことを示唆しており、今回得られた形態的・分子的情報を考慮した解析により、外生菌根菌類の真の多様性解明に近づくと考えられる。 3.陸上植物の中で最も祖先的な系統である、コマチゴケの内生菌の同定を昨年に引き続き行った。南西諸島から東日本に至る各地の試料を調べた結果、内生するアツギケカビ目の系統が試料間で一致するケースはほとんど見られず、コマチゴケに内生するアツギケカビ目の多様性は予想以上に高いことが示唆された。 4.アツギケカビ目の菌根形成が実生の成長に及ぼす影響を評価するためには、複数種かつ複数個体のアツギケカビ属について菌根苗を作出し、実生成長を比較することが必要であった。本年度にE. lactifluaとE. flammicoronaを計5個体接種試験に供試した結果、両種それぞれ2個体について菌根苗の作出に成功し、本試験の準備が整った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究実績の概要に記載の1の成果の一部について、国際誌に論文が掲載された。また1、2、3の各内容についてそれぞれ国際学会または国内学会にて発表した。 また4において次年度の実験の試料調製が完了し, ほぼ計画通りに進めることができた。その他、1および2の成果の一部については、論文の投稿準備中である。以上のことから, 研究の進展は順調であると考える。
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Strategy for Future Research Activity |
現在準備中である1および2に関する論文を投稿する。また、新種記載も継続して行い、アツギケカビ目の詳細な分類体系の確立し、論文を投稿する。3については、コマチゴケ類の他種についても観察と内生菌の同定・系統解析を行い、コマチゴケ類とアツギケカビ目の共進化について考察する。4については実験開始から5ヶ月後に苗の成長量を計測し、共生が宿主植物に与えた影響を評価する。また、菌根中に存在する共生菌の菌糸の状態を蛍光顕微鏡観察などによって視覚的に捉える方法を検討する。得られた結果をもとに、アツギケカビ目の菌根共生系の機能を解明する。 以上の実験結果をもとに、アツギケカビ目と植物の菌根共生系の機能や進化過程について総合考察を行う。
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