2015 Fiscal Year Annual Research Report
エクソソームを介したがん幹細胞の新規情報伝達機構の解明と創薬応用
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14J09202
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Research Institution | National Cancer Center Japan |
Principal Investigator |
青木 奈央 国立研究開発法人国立がん研究センター, 研究所, 特別研究員(PD)
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Project Period (FY) |
2014-04-25 – 2017-03-31
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Keywords | エクソソーム / 細胞外小胞 / 乳がん / 転移抑制 / 抗体医薬 |
Outline of Annual Research Achievements |
当研究者は、がん細胞の分泌するエクソソームという細胞外小胞の機能を阻害することで、がんの転移を抑制することを目的としている。前年度までに、がん細胞由来のエクソソームを認識する抗CD9抗体を乳がんのマウスモデルに投与することでがんの肺転移の抑制に成功した。本年度は、抗体がエクソソームに作用することで転移抑制が起こる機構の解明を行った。 1.エクソソーム上の別の標的タンパク質に対する抗体による転移抑制 今回は新たに、CD9と同様に乳がん細胞由来の抗体のエクソソームの表面に存在するCD63に対する抗体を投与し、同様に肺への転移抑制が見られることを検証した。抗CD63抗体は、抗CD9抗体よりも強力に転移を抑制した。この時、原発巣は縮小せず、抗体が原発巣のがん細胞を直接傷害した可能性は低い。エクソソームの表面に存在する2種類のタンパク質に対する抗体で同様の結果を得たことは、抗体がエクソソームに作用した結果転移を抑制したことを強く示唆する。 2.抗体が転移を抑制する機構の検証 まず、免疫電子顕微鏡で、抗CD9及び抗CD63抗体がエクソソームの表面に結合することを確認した。次に、抗体による転移抑制機構として、中和作用による取込抑制作用、及び、マクロファージにより貪食促進の可能性を考え、培養細胞で実験を行った。すると、抗CD63抗体は関してはマウスマクロファージによる貪食促進、抗CD9抗体に関しては血管内皮細胞への取込抑制、マクロファージの貪食促進の両方が見られた。さらに、マウスモデルで、抗体と結合することで、エクソソームの肝臓や脾臓における存在量が減少することを発見した。肝臓や脾臓はマクロファージが多い臓器である。上記の結果は、抗体との結合により、がん細胞由来のエクソソームがマクロファージに貪食されやすくなり、がんの転移促進作用を抑制したと考えられる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
前年度に引き続き、今年度もエクソソームの治療応用に取り組んでいる。前年度までに、乳がんモデルマウスに、がん細胞由来のエクソソームのみに結合する抗体を投与すると、転移が抑制されたという結果を得ていた。今年度は、得られた結果の再現性の確認を行うと共に結果を補強するデータを取得し、さらに投与した抗体が転移を抑制する機構を追求した。結果、抗体ががん細胞由来のエクソソームに結合することで、マクロファージによる貪食の促進が起こることが分かった。この研究は、がん細胞由来のエクソソームが治療標的として有望であることを示し、新規ながん治療の開発につながる成果である。得られた成果を国内の複数の学会でポスター発表を行い、さらには日本癌学会やBMB2015という国内では有数の規模の学会で口頭発表を行った。日本癌学会の発表内容に関しては日経バイオテクからの取材を受け、研究を紹介する記事が掲載された。現在は、これまでの成果をまとめて論文投稿中である。
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Strategy for Future Research Activity |
抗体がエクソソームに結合することで、転移を抑制する、ということを完全に証明するには不足しているため、確認実験を進める。例えば、循環腫瘍細胞への抗体の影響もまだ否定できていないので、マウスモデルにおいて、循環腫瘍細胞の数や性質への抗体の影響の有無を調べる。 また、転移に関わるエクソソーム内の成分を特定する予定である。高転移と低転移のヒト乳がん細胞株からエクソソームを回収し、従来言われてきたmiRNAだけでなく、タンパク質や脂質など他の構成成分に関しても検討する。
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