2014 Fiscal Year Annual Research Report
ハイデガーにおける思考論の再検討-手作業の意義に着目して-
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14J09208
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
李 舜志 東京大学, 教育学研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2014-04-25 – 2017-03-31
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Keywords | 手 / 手仕事 / 思考 |
Outline of Annual Research Achievements |
今年度の研究の成果として、マリア・モンテッソーリの手に関する論述の検討、ハンナ・アレントとハイデガーにおける思考概念の比較検討、そしてドイツにおいて2012年に出版された『手仕事としての教育』第一章を翻訳し、研究室の紀要に投稿したことが挙げられる。 モンテッソーリの手に関する論述は、先行研究において感覚器官の訓練を論じているものとして整理されていた。しかしモンテッソーリ自身は教育における手とは「感覚器官の問題ではない」と述べている。モンテッソーリにおいて手とは、作品の制作と、それが世代を超えて継承されることを可能とするものなのであった。ここから、モンテッソーリの手を筋肉や感覚器官の訓練からではなく、遺産相続の問いとして展開することを試みた。その際、モンテッソーリが重視し、また幼児教育の実践場面においてもその重要性が認められている「環境」が、手仕事によって制作されたものとして論じられていることを明らかにした。 アレントとハイデガーにおける思考概念の比較検討は、アレント研究者と共に研究会を開き、共著論文を執筆する形でなされた。これによって、アレントがハイデガーの思考概念のどこに意義を見出し、かつ批判すべき点を見出したのかを明らかにした。 最後に『手仕事としての教育』の翻訳であるが、この著書はしばしば日本国内の学術論文において引用されるものでありながら、未訳であったために、その意義はあまり周知されていなかった。そこで今回、出版社から許可を得たうえで、研究室紀要にその翻訳を投稿したのであった。研究室紀要の原稿はウェブ上で閲覧することができるため、今回の翻訳によって、『手仕事としての教育』の持つ(一部ではあるが)教育学における重要性が、広く知れ渡る機会をつくることができたと言えるあろう。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究における今年度の達成度は、「おおむね順調に進展している」と評価できる。 学会発表を二回、学術論文を二本執筆し、また翻訳も手がけた。そして当初の計画通り、今年度中に資料調査を済ませることもできたため、今年度に設定した目的は、すべて達成したと言える。 ただ、学会での発表の成果を、論文にまとめる作業が完璧になされたとは言い難いので、今後の課題としたい。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究課題の今後の推進方策について、ここでは簡潔に三つ挙げることにしたい。 ひとつは、論文執筆のペースを上げることである。今年度は、二本査読誌に投稿したが(現在査読中)、来年度は一年に三、四本執筆し、投稿することにしたい。 また、来年度はより哲学的な学会で研究発表を行い、それに応じた論文を執筆することにしたい。それによって、本研究の課題である手と思考の関係についての検討に、哲学的思考の強靭さを付け加えることが期待される。 そして、語学力の向上も今後の課題としたい。そのために、今年度から、フランス語原書講読の授業を受講している。また、大学の国際交流室などを活用し、TOEFLのスコアアップを狙いたい。それに伴い、自らの研究をよりグローバルなものとするため、国際学会での発表も試みたい。
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Research Products
(4 results)