2015 Fiscal Year Annual Research Report
ハイデガーにおける思考論の再検討-手作業の意義に着目して-
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14J09208
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
李 舜志 東京大学, 教育学研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2014-04-25 – 2017-03-31
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Keywords | 技術 / 記憶 / 痕跡 / 社会的なもの |
Outline of Annual Research Achievements |
今年度の研究実績としてまず挙げられるのが、ハイデガーにおける手についての論述の検討である。本年度は行為と言葉との関係からハイデガーの手について検討し、その成果を日本現象学会第37回大会で発表した。ハイデガーにおける手が行為と言葉との密接なかかわりを検討し、手がはじめて行為者とその対象を分節化すること、そこにおいて言語という起源とその痕跡をはじめて成立することを示した。ただし、手と行為の関係という観点から『存在と時間』における手許存在と手前存在という両概念に言及するべきであったが、この作業は課題として残った。 次に、ハイデガー以外の論者による手についての議論の検討である。たとえば先史人類学者のルロワ=グーランは直立歩行し手が解放された人間という種の誕生と道具の発明を同じ契機として捉えることによって、本来的に技術的な存在としての人間を提示した。そしてフランスの哲学者であるベルナール・スティグレールはこのルロワ=グーランの着想をデリダのグラマトロジーを参照することによって批判的に引き継ぎつつ、ハイデガーの存在論と重ね合わせることによって、独自の技術哲学を構想した。この手の解放と技術の獲得が教育にどのように関わっているのか、上記の思想家たちの議論を参照することによって明らかにする論文を執筆し、『教育哲学研究』第114号に投稿した。 そしてこの手の解放という人類学的発見とハイデガーの存在論を引き継ぎつつ、スティグレールは現代の管理社会についての考察を展開する。ここで管理社会とは、もはや規律訓練が社会を組織する際の原理的位置を占めていない新しい事態を表すためにドゥルーズが提出した概念である。このような事態に教育思想はどのように応答できるのか検討し、その成果を第58回教育哲学会で発表した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
現在までの進捗状況は、おおむね順調だと言える。 理由として、定期的に学会で研究成果を発表できていること、学会誌に査読付き論文を投稿したこと、そして前年度の今後の研究の推進方策で目標とした、国際学会での発表を果たしたことなどが挙げられる。
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Strategy for Future Research Activity |
今後の研究の推進方策として、大きく三つを挙げることができる。 ひとつは、学会でも指摘があったのだが、ハイデガーの手許存在と手前存在についての検討である。『存在と時間』で提出されたこの両概念についての検討は本研究にとって中心的な課題であるのだが、いまだ取り組めていない。したがって、本年度は文献読解と資料調査の成果などを綜合して、この課題に取り組まなければならない。
もうひとつは、学会誌の査読に耐えうる論文を執筆することである。現在投稿中の論文を除くと、学会誌に掲載された論文は一本のみである。博士論文を執筆するためには最低でも査読付き論文が二本必要であるため、今年度中に最低でももう一本、査読に耐えうる論文を執筆するよう励まなければならない。
そして最後は、以上の成果を綜合したうえで、博士論文を執筆することである。
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Research Products
(4 results)