2014 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
14J09406
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Research Institution | Tokyo Institute of Technology |
Principal Investigator |
金子 岳史 東京工業大学, 理工学研究科, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2014-04-25 – 2016-03-31
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Keywords | 光反応 / ヒドリド / ルテニウム / 三重架橋配位子 / ボリレン / オキソボリル / 反応機構 |
Outline of Annual Research Achievements |
1. 三重架橋オキソ配位子を持つ三核ルテニウム末端アルキン(RCCH)-モノヒドリド(H)錯体に対する紫外光の照射では、アルキン配位子の末端 C-H 結合の切断とヒドリド配位子の脱離が起こることがこれまでの研究により明らかになった。平成26年度は、内部アルキン(RCCR)配位子を有する三重架橋オキソ錯体を新たに二通りの方法で合成し、その光反応挙動を研究した。その結果、ヒドリド配位子が形式的に水素ラジカルとして脱離した新規な常磁性 47 電子アルキン錯体を得た。アルキン配位子の配位様式が光反応の前後で変化することを明らかにした。2. 三重架橋ボリレン(BH)配位子を導入したアルキン錯体への可視光照射ではボリレン配位子が分子内で転移し、アルキン配位子と結合することで「炭素-炭素-ホウ素」三員環形成を形成することを以前に報告した。反応機構を解明するために、ヒドリド配位子とボリレン配位子上の水素原子を、部分的に重水素(D)に置換した錯体を新規に合成し、その光反応生成物を分光学的手法により分析した。その結果、本反応は、ホウ素-水素間の結合開裂がほとんど起こらず、Ru-Ru 結合の部分的な開裂を経て進行することが明らかになった。3. これまでに三重架橋ボリレン配位子を有するアルキン錯体に対する、水存在下での紫外光の照射、あるいは加熱により、三重架橋オキソボリル(BO)配位子を有する新規な三核ルテニウムアルキン錯体を与えることを報告した。平成26年度はさらに高い反応性を示すBO錯体の合成を目指し、支持配位子以外にBO配位子とヒドリド配位子のみを持つ配位不飽和な三核ルテニウム錯体の合成を試みた。検討の結果、配位不飽和三重架橋ボリレン錯体との水の反応をアミン存在下で行うことで効率的に反応が進行し、目的とする三重架橋BO配位子を有する三核テトラヒドリド錯体の合成を達成した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
三核ルテニウムポリヒドリドクラスターを研究対象とし、その光反応挙動の解明についていくつかの大きな進展があった。まず、紫外光の照射ではこれまでヒドリド配位子と支持配位子(ペンタメチルシクロペンタジエニル配位子)のみから成る三核ルテニウムペンタヒドリド錯体が示したのと同様に、ヒドリド配位子が形式的に水素ラジカルとして脱離する系を見出した。多核錯体が持つ配位子の種類、合計の電子数、ヒドリド配位子の数により、その光反応挙動を系統的に説明できる証拠が揃いつつある状況である。また、その一方で、ボリレン(BH)を三重架橋配位子として持つ錯体に関しては、可視光照射によりボリレン配位子と炭化水素配位子が分子内でカップリングするが、本反応の機構を解明するために、ボリレン錯体の性質について詳細な調査を行った。その結果、重水素で置換した化合物を合成する中で、ボリレン錯体とアルキンの反応機構や、重水素との反応の様式、また可視光により誘起される先に述べた分子内カップリング反応の機構について、数多くの知見を得ることが出来た。また、オキソボリル錯体に関しては、ボリレン錯体が水存在下での紫外光照射により架橋オキソボリル配位子へと変換されることを見出したことから始まった研究であるが、平成26年度は三重架橋オキソボリル(BO)配位子を有する配位不飽和な三核ルテニウムテトラヒドリド錯体の合成方法の最適化に成功した。①アミンを触媒として利用すること ②錯体の精製の段階で 1,3-シクロヘキサジエンを用いて副生成物のみを別の錯体に変化させ、極性溶媒で目的のBO錯体のみ抽出する方法を開発したこと など、様々な工夫を行うことで目的とする錯体を得ることが出来た。年度内に研究をまとめ、平成27年3月に行われた日本化学会春季年会で本内容について発表を行うことが出来た。
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Strategy for Future Research Activity |
平成26年度に得られた知見を利用した新規反応の開発を目指す。具体的には可視光の照射により分子内転移するボリレン配位子の性質を利用し、クラスター上での新規な複素環の構築を試みる。特にイミドイル(RCNH)配位子を持つボリレン錯体を合成し、それに対する可視光照射を試みる。本反応の開発により、錯体の電子数、配位子の選択、ヒドリド配位子の数の影響など、分子内ボリレン光転移反応の進行を決定する様々な因子の寄与を明らかにしたいと考えている。得られた新規複素環を有する化合物を単離し、その結合形式の解明などもDFT計算等を用いることにより併せて進める。また、平成26年度に合成を達成した三重架橋オキソボリル配位子を有する三核ルテニウムテトラヒドリド錯体の反応性にも注目する。オキソボリル種は極めて不安定な化学種であり、我々のグループ以外には単核オキソボリル錯体がBraunschweigらにより一例報告されているのみである。複数の研究グループにより、理論計算上は、オキソボリル配位子は高いσ供与性を有することが報告されている。この性質は、オキソボリル配位子が架橋配位した際にはどの程度発現されるのか、様々な基質との反応性を調査する中で検証したい。また、DFT計算の結果、オキソボリル配位子の酸素上には負の電荷がチャージされていることが明らかになったが、この酸素原子との相互作用を期待して、プロトンや嵩高いルイス酸を添加することで、オキソボリル錯体の性質がどのように変化するのかにも注目して研究を展開する。これらの研究に加えて、平成26年度に行っていた、オキソ配位子を有するアルキン錯体の光反応について、反応機構の点など捕捉の実験を行い、論文投稿や学会発表を行うことで、自らの研究を発信していきたいと考えている。
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Research Products
(4 results)