2015 Fiscal Year Annual Research Report
広帯域・高精度のX線分光で探る中間質量ブラックホール
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14J09878
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
小林 翔悟 東京大学, 理学系研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2014-04-25 – 2017-03-31
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Keywords | ULX / ブラックホール / X線 / ASTRO-H |
Outline of Annual Research Achievements |
次期X線衛星ASTRO-Hは、全系を組み立てて接続した状態で行う、打ち上げ前の最終動作確認に臨んだ。これは衛星全体を、宇宙の真空・低温を模擬した環境や、打ち上げ時と同等レベルの振動下にさらすものである。私が開発を行ってきた硬X線撮像検出器(HXI)は、衛星搭載前と同等の性能を発揮し、他の搭載検出器と合わせて、打ち上げに問題がないことが確認された。その後2月17日にASTRO-Hは無事に打ち上げられ、「ひとみ」衛星として運用を開始した。私は自ら運用現場に赴いてHXIの立ち上げ運用を行い、HXIは地上試験で得られていた性能通りに、天体からのX線信号を取得することに成功した。この瞬間、本研究課題で必要不可欠であった広帯域・高精度でのX線観測が実現された。 平行して、中間質量ブラックホール(BH)候補であるUltra Luminous X-ray source (ULX)の観測的研究を昨年度から継続して行った。ULXのX線スペクトルの変動が、降着円盤の温度とそれを覆うコロナ中の電子の温度との比、およびコロナが円盤を覆う面積の割合という、2つの新しいパラメタで統一的に描像できることを示した。また、2つの特徴的なスペクトル状態間を遷移するときの臨界光度が、複数のULXで1桁近くばらついていることに着目し、より知見が進んでいる恒星質量ブラックホールとの比較から、ULXの質量分布も同等の幅をもっている可能性を指摘した。以上の結果をスペインで行われた国際学会で発表し、査読付きの収録としてとりまとめて、Astronomische Nachrichtenへ掲載した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
ASTRO-H衛星が無事に宇宙空間に打ち上げられ、「ひとみ」衛星として運用を開始した。私が開発を行ってきたHXIも大きな問題もなく正常に立ち上がり、当初計画していた性能通りに天体の観測を開始できた。これは本研究において必要不可欠な、広帯域・高精度観測が実現された瞬間であり、研究進捗において非常に大きな意味をもつ。残念ながら、3月26日に「ひとみ」衛星からの通信が途絶して以来、観測は滞っているが、今後衛星を復旧できる可能性は十分ある上、すでに運用されている他の衛星からのデータを複数もちいることで、「ひとみ」衛星で得られるはずであったデータを一部補完することも可能である。 実際、「すざく」衛星やXMM-Newton、Nu-Starといった他の衛星のデータを複合的に用いることで、広帯域で見たULXのスペクトル変動の統一的な描像を構築し、これと恒星質量BHで得られていた知見との類推から得られたULXの質量分布の推定を、国際学会で発表して査読付き収録として掲載することができた。この結果が評価され、6月にフランスのストラスブールで行われるULXの研究会に、口頭発表者として招待されており、国外の研究者への研究結果の発信も順調に行えている。
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Strategy for Future Research Activity |
「ひとみ」衛星の復旧を試みつつ、通信途絶にいたるまでに取得されたデータの解析をすすめ、世界中のユーザーが精度よくHXIデータの解析を行えるよう、地上で構築したHXIの応答関数の修正といった較正作業をおこなう。また軌道上で得られたスペクトルから検出器性能の評価と天体からのX線データの解析を行い、「ひとみ」衛星で初めて得られた科学的成果を論文へ取りまとめる。今後、衛星が無事に復旧出来た際には、当初の予定どおりULXの観測提案を行い、広帯域・高精度でのULXの観測を実現する。 「ひとみ」衛星だけでなく、現役の衛星で既に得られている膨大な観測データを系統的に解析し、広帯域で得られた複数のULXのスペクトルを、恒星質量BHおよび超巨大質量BHのそれと比較することで、ULXがいかなる降着メカニズムで輝いているかを推定する。また、一見異なるスペクトル変動の仕方を示すULX間で、今回得られた統一的な描像が拡張できるかを検証し、結果をより補強し確固たるものとしていく。
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