2015 Fiscal Year Annual Research Report
ドナルド・デイヴィドソンの哲学--その総体と「ヴィーコ的円環」の解明
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14J09917
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
入江 哲朗 東京大学, 総合文化研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2014-04-25 – 2017-03-31
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Keywords | アメリカ哲学 / 思想史 / 自然主義 / プラグマティズム / ウィリアム・ジェイムズ / ジョン・デューイ / フランク・ノリス / ドナルド・デイヴィドソン |
Outline of Annual Research Achievements |
報告者は、近現代の米国の哲学および思想を研究対象とし、とりわけ、ドナルド・デイヴィドソンが築いた広範な哲学体系をその歴史的文脈に留意しながら研究することを主な目的としている。平成26年度において報告者は、この目的を達成するために、デイヴィドソンが1935年から1946年まで在籍したハーヴァード大学の知的環境がどのようなものだったのかを明らかにする作業に従事し、その結果、以下の問いを解くことが本研究を進めるうえでの鍵となるという認識を得た。それはすなわち、19世紀から20世紀への世紀転換期に米国思想史が被った巨大な変化の内実はどのようなものだったのか、そしてその過程においていったいなぜ、哲学と文学というふたつの領域において同時に、自然主義の隆盛という現象が発生したのか、という問いである。 平成27年度において報告者は、こうした前年度の成果を踏まえ、世紀転換期の米国における自然主義のありさまに光を当てることに注力した。たとえば、2015年6月に開催された第2回アメリカ哲学フォーラムにおいて報告者がおこなった「フランク・ノリスとジョン・デューイ――世紀転換期米国における自然主義の諸相」と題する発表は、自然主義の隆盛を文学の領域において代表するフランク・ノリスと、哲学の領域において代表するジョン・デューイとの関係を論じることをとおしてさきの問いに答えようとする試みである。また、報告者が英語で発表した論文"William James and American Naturalism at the Turn of the Century"は、世紀転換期のアメリカ哲学と自然主義との関係という同じ問題に対して、自然主義文学の生みの親と言われるエミール・ゾラにも強い影響を与えたイポリット・テーヌの思想がウィリアム・ジェイムズの哲学においてどう批判的に受容されたかという別の(先行研究にもさほど多くは見られない)観点から切り込もうとしたものである。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
19世紀末から20世紀初めにかけての時期を扱った従来の米国思想史研究が採ったアプローチはおおむね、「お上品な伝統」と呼ばれる19世紀の思潮を担った知識階級が世紀転換期の急速な産業化に翻弄されてゆく軌跡のなかに反近代的な抵抗の姿勢を見出すか、あるいは、消費社会の黎明を記録する資本主義的ディスクールの生成過程をアメリカ自然主義文学のなかに読みとるかのどちらかに分類される。平成27年度における報告者の取り組みは、後者のアプローチが文学における自然主義の隆盛にのみ注目し哲学における隆盛にはほとんど関心を払ってこなかったという偏りを是正しようとするものであり、その企図のもとに、前項で述べたような成果を上げることができた。 他方で、平成27年度における報告者の研究が、デイヴィドソンの哲学体系の解明という本研究の最終目標との関係が傍目からはやや見えにくいものになってしまったことは、報告者にとっての反省点でもある。もちろん、先述のとおり、世紀転換期の米国思想史を理解するという作業は本研究にとって必要不可欠なものである。なぜなら、「デイヴィドソンはプラグマティストなのか」という問い、あるいは「デイヴィドソンは自然主義者なのか」という問いに対して、研究者たちはいまだ一致した回答を与えられずにいるからであり、本研究がこれらの問いに答えるうえでは、アメリカ哲学におけるプラグマティズムと自然主義との関係の分析を避けては通れないからである。したがって、いままでの成果を20世紀の米国思想史へと接続することによって、本研究の最終目標へと進んでゆくための足がかりを得ることは、平成28年度において報告者が成し遂げるべき課題のひとつである。 以上のような成果と課題を得たという意味において、本研究は平成27年度においてもおおむね順調に進展していると言える。
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Strategy for Future Research Activity |
アメリカ哲学史という学問領域がいまだに十分には整備されていないという現状がある以上、デイヴィドソンの哲学を米国思想史のなかに位置づけるという本研究の取り組みは、アメリカ哲学史を記述するための基礎を固めるという作業なしにはおこないえない。それが、平成27年度の報告者の研究がもっぱら世紀転換期に焦点を絞っていた理由であり、ゆえに先述のとおり、いままでの成果を20世紀の米国思想史へと接続させることが、今後の研究の推進方策となる。 また、前項では、世紀転換期を扱う米国思想史の先行研究に見られるふたつのアプローチのうちのふたつめ(資本主義的ディスクールの生成過程の読解)に対する本研究の貢献を強調したけれども、報告者は同時に、本研究の成果はひとつめアプローチに対しても新たな知見を提供するはずだという確信を強めてもいる。すなわち具体的には、「お上品な伝統」という言葉の由来になっているジョージ・サンタヤナの1911年の講演「アメリカ哲学におけるお上品な伝統」を、同時代における自然主義の隆盛との関係に留意しながら読みなおすことによって、「お上品な伝統」から自然主義へという米国思想史上の展開を、従来の研究のように両者を単に対立的なものと見なすことなく、より精緻に描き出せるのではないかと考えている。このことを筆者は、2016年6月に開催される第3回アメリカ哲学フォーラムにおいて発表する予定であり、以降もさらに研究を積み重ねることによって、世紀転換期の米国思想史を包括的に記述するための新たな視座を提示することを試みる所存である。
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Research Products
(2 results)