2014 Fiscal Year Annual Research Report
19世紀末から20世紀初頭の英米における形而上学研究-ホワイトヘッドを中心に
Project/Area Number |
14J09918
|
Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
吉田 幸司 東京大学, 人文社会系研究科, 特別研究員(PD)
|
Project Period (FY) |
2014-04-25 – 2017-03-31
|
Keywords | ホワイトヘッド / ジェイムズ / ブラッドリー / 現代英米哲学 / 形而上学 / feeling |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は、F.H.ブラドリーの絶対的観念論と、それに対抗するW.ジェイムズやA.N.ホワイトヘッドの形而上学を比較研究した。特に、思想史的背景を踏まえつつ、三者が共通して用いた「感受(feeling)」に注目して研究を遂行し、以下の成果が得られた。
1. 従来の理解では、英国ヘーゲル主義に対してムーアやラッセルが反旗を翻し、1920年代以降には形而上学排斥が英語圏で支配的になると想定されている。しかし、ブラドリーの影響は、批判されるというかたちで20世紀前半に色濃く残り、神論も含めた形而上学的思潮が連綿と続いていたことを本研究は明らかにした。1924年以降に展開されるホワイトヘッドの形而上学も、その思潮の中に位置づけられた。
2. 形而上学の内容だけでなく、その方法論や形而上学という学に対する態度について、前掲の三者には根本的相違がみられることが明らかになった。三者とも、原初的な直接経験として感受という語を用い、実在はそれをもって把握されると考えている。だが、ブラドリーの場合、感受は、個別性や多元性を解消する絶対者のうちで展開し、形而上学は、そうした一なる全体としての実在を知ろうとする試みである。一方、ジェイムズは、形而上学のテーゼとして個別性や多元性を擁護するのみならず、現実から遊離したブラドリーの形而上学を批判し、実在は、生々しい個別化された感受と不可分であると主張する。ホワイトヘッドは、個別的で情感的な経験に依拠して実在を見出すが、思弁的形而上学を展開した点ではブラドリーに親和性がある。ただし、ブラドリーと異なり、ホワイトヘッドは、諸科学を包括する仕方で形而上学を構築しており、その形而上学は、経験的事実に根づきつつ、合理的体系を目指した試みとして評価できた。空虚な思弁とみなされてきた形而上学的思潮は、実際には、我々の生きる具体的な現実へ立ち返る思潮であったと改められた。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初の計画通り、ブラドリー、ジェイムズ、ホワイトヘッドの形而上学を比較研究し、19世紀末から20世紀初頭の英米における形而上学的思潮の輪郭を捉えることを達成した。特に、形而上学という学に対する態度の根本的相違という、新しい着眼点も得られ、次年度以降、ムーアとラッセルから論理実証主義を経由して分析哲学に向かう潮流と比較する研究の足掛かりを作ることにも成功したといえる。
|
Strategy for Future Research Activity |
ブラドリー、ジェイムズ、ホワイトヘッドの研究をさらに深めつつ、現代英米哲学の主流とされてきた思潮(ムーアやラッセルに始まり、今日の分析哲学に通ずる思潮)との比較研究を遂行する。これにより、現代英米哲学という広い視野の中で、本研究の位置づけや独自性を明確にするとともに、分析哲学につながる思潮の特徴も、形而上学的思潮との対比によって浮き彫りにしたい。また、2015年度にウェブサイトを公開し、本研究の成果を含む、現代英米哲学の情報を発信する予定である。
|