2014 Fiscal Year Annual Research Report
ボーム経路を用いたレーザーパルス中における多電子ダイナミクスの解析
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14J10100
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
澤田 亮人 東京大学, 工学系研究科, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2014-04-25 – 2016-03-31
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Keywords | 第一原理計算 / 高強度レーザー / ボーム経路解析 |
Outline of Annual Research Achievements |
【研究結果1】2電子1次元系のボーム経路解析 2電子1次元系の時間依存シュレディンガー方程式の厳密計算を開発し、Enhanced ionization(二原子分子のイオン化率が核間距離に依存し、特定の値でピークを持つ現象)を計算した。波動関数をボーム経路解析(電子密度の流速を用いた解析。古典流体の蛍光ビーズ解析の要領で量子現象を議論できるのが特徴)した結果、Enhanced ionizationのメカニズムが従来考えられていたモデルよりも複雑なものであることが明らかになった。(結果はPhysical Review Aに投稿、掲載された)同様にボーム経路解析を励起ヘリウムのノックアップ(内殻電子がイオン化する際に外殻電子を励起する現象)にも適用した。(研究成果は日本物理学会で発表した)
【研究結果2】2電子3次元系の計算シミュレーション開発 多電子多次元系の開発に先立ち、2電子3次元系の計算シミュレーションの開発を行った。開発はOriolsらの手法(ボーム経路の運動方程式を一電子波動関数のスレーター行列式で近似する手法。半導体の計算などに成功している)とMulti Configuration Time-Dependent Hatree-Fock法(MCTDHF。ハートリーフォック法よりも更に多くの一電子波動関数を用いて波動関数を近似する)の二つの手法でアプローチを行った。Oriolsらの手法については、高速に移動する電子の相互作用を近似が難しく、現象を再現しにくいという結果が得られた。MCTDHFについては、無事に開発が成功した。更に、MCTDHFについては、従来の極座標展開ではなく、直交座標をベースとすることで、複数の核を持つ系への適用が可能となった。更に電子相互作用計算について、GPGPUのベンチマークテストを行い来年度のGPGPU並列計算の実装に備えた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2電子1次元系の開発については計画通りに開発に成功した。ボーム経路解析を様々な高強度場現象に適用し、特にEnhanced ionizationの解析では新規メカニズムの発見という大きな成果を得た。多電子系の計算シミュレーションについては、Oriolsらの手法によるアプローチと、MCTDHFの二つのアプローチで開発を行った。Oriolsらの手法は高強度場現象への適用が難しいという結果が得られたが、MCTDHFの計算の開発に成功しており、2電子3次元系の開発をするという本年度の目標は達成できている。また、来年度の研究に備え、電子間相互作用の計算の効率化を行うべく、GPUを用いた並列計算のベンチマークテストを行った。
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Strategy for Future Research Activity |
2電子3次元のMCTDHFについては研究成果を纏め論文投稿を行う予定である。同時進行で、不必要なグリッドを削るルーチンを実装することでより効率的に計算を行えるように計算を拡張する。拡張が無事に終われば多次元多電子系の第一原理計算の実現が期待できる。計算の高速化にあたっては、本年度予算で購入したGPUワークステーションを用いる。
更に、MCTDHFを拡張したTD-CASSCFの開発も行う。TD-CASSCFは内殻電子のイオン化など、殆ど起こらない現象の計算を省略することでMCTDHFよりも大幅に高速(申請者が所属する研究室で行われた研究では最大10倍程度)に計算を行うことができる。
開発が完了した暁には、水分子などを対象に、高次高調波、Enhanced ionizationの計算を行う。更に、得られた計算結果にボーム経路解析を施すことで、高強度場現象における電子相関の役割を明らかにすることを試みる。将来的には計算から得られた知見を元に、新規アト秒パルス生成手法や新規アト秒測定手法の提唱を試みる。
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Remarks |
2014年 第36回(2014年春季)応用物理学会講演奨励賞
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