2014 Fiscal Year Annual Research Report
オプトジェネティクスを用いた慢性痛における下行性疼痛制御系の意義の解明
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14J10173
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Research Institution | Jikei University School of Medicine |
Principal Investigator |
杉村 弥恵 東京慈恵会医科大学, 医学研究科, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2014-04-25 – 2016-03-31
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Keywords | 橋腕傍核 / 扁桃体中心核 / 中脳水道周囲灰白質 / シナプス伝達 / 慢性痛 / オプトジェネティクス |
Outline of Annual Research Achievements |
痛みは生体に生じた異常を伝える警告信号として必要なものだが、組織障害や強い侵害受容がほとんど消失しているにもかかわらず持続する慢性痛は負情動をその本態としている。その成立の一機序として脊髄後角浅層から侵害受容情報の入力を受ける外側橋腕傍核(LPB)と情動の中枢である扁桃体の中心核外側外包部(CeC)のシナプス伝達増強の関与が知られている。また、扁桃体中心核内側部(CeM)の出力ニューロンは、下行性疼痛制御系の起始核である中脳水道周囲灰白質(PAG)を介して吻側延髄腹側核(RVM)の活動を制御しており、LPB-CeCシナプス伝達の増強が下行性疼痛制御系の可塑的変化を引き起こす可能性がある。本研究では、このような上行性・下行性の疼痛情報・制御ループを解明するため、特定のニューロンのシナプス伝達の高精度な解析を可能とするスライス標本を用いたパッチクランプ記録と、経路特異的活性化法である光遺伝学的手法を組み合わせて実験を行なった。従来の電気刺激による経路活性化法では、離れた神経核からの投射線維を特異的に活性化することは困難だったが、本研究ではLPBに光活性化チャネルを導入した後、扁桃体を含む脳スライス標本を作製し、LPB由来の神経線維を光刺激によって特異的に活性化して、LPB-CeCシナプス伝達を記録した。その結果、1)CeCニューロンはLPBからの単シナプス性興奮性入力だけではなく、間接的な多シナプス性入力を受けること、2)LPB由来の神経線維がGABA作動性介在ニューロンを介したフィードフォワード抑制の局所回路を形成していること、3)ホルマリン誘発炎症性疼痛モデルにおいて、特定の発火パターンを示すCeCニューロンのLPB-CeCシナプス伝達が有意に増強していることを明らかにした。また、CeMの出力ニューロンが下行性疼痛制御系に及ぼす影響について検討するため、CeM由来の神経線維を特異的に活性化し、CeM-PAGシナプス伝達の解析を行なった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度はLPB-CeCシナプス伝達の解析を中心に実験を行なった。当初は興奮性シナプス伝達のみを解析する予定だったが、CeCニューロンはLPBからの単シナプス性興奮性入力だけではなく、間接的な多シナプス性入力も受ける事実が明らかになったため、その間接的な入力について詳細な解析を行なった。そのため、当初の計画よりLPB-CeCシナプス伝達の解析に多くの時間を費やしたが、実験の結果、LPB由来の神経線維がGABA作動性介在ニューロンを介したフィードフォワード抑制の局所回路を形成していることを明らかにした。これは従来の電気刺激を用いた経路活性化法では明らかにできなかった新事実であり、慢性痛モデルにおけるシナプス伝達の増強について検討する上でも、考慮しなくてはならない重要な点である。次に、炎症性疼痛モデルにおける興奮性シナプス伝達の解析を行なった。CeCには異なる発火パターンを示すニューロンの亜集団が存在することが知られており、本研究ではCeCニューロンを発火パターン別に分類した。それぞれの亜集団について、疼痛群と対照群を比較するのに十分な例数を集めるため、多くの実験を行なった。その結果、炎症性疼痛モデルにおいて特定の発火パターン(遅発発火型)を示すニューロンの興奮性シナプス伝達が有意に増強していることが明らかになった。これらの新たな発見を早急に国際的に公表するため、本年度の後半は論文執筆作業を中心に行ない、現在、論文を投稿したところである。また、CeM-PAGシナプス伝達の解析を行なうため、ウィルスベクター注入部位の座標、PAGを含む急性脳スライス標本の作製方法、シナプス伝達の記録条件などの実験プロトコールの検討を行なった。以上より、若干の研究計画の遅れ、変更はあったものの、研究計画全体としてはおおむね順調に進展している。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は投稿した論文について、追加実験が必要になる可能性に備え、迅速に対応できるようウィルスベクターの注入など追加実験の準備を整えておくとともに、CeM-PAGシナプス伝達の解析を進める。すでに、CeMにウィルスベクターを導入し、PAGを含む脳スライス標本を作成してCeM由来の神経線維を特異的に活性化し、CeM-PAGシナプス伝達を記録する技術をほぼ確立した。今後はCeMからPAGへの入力について詳細な薬理学的解析を行ない、単シナプス性の入力であることを確認し、間接的な入力の有無を調べる。また、RVMに逆行性蛍光トレーサーを導入し、蛍光標識されたPAGニューロンからの記録を行なう。現在、ウィルベクターを用いて光活性化チャネルを導入しているが、実験の結果によっては、より効率よく、選択的に光活性化チャネルを導入するため、ウィルスベクターの種類や遺伝子改変動物の使用も検討する。さらに、慢性痛における下行性疼痛制御機構の変化について解析するため、疼痛モデルと対照群のCeM-PAGシナプス伝達を記録し、比較する。これまで炎症性疼痛モデルを用いてLPB-CeCシナプス伝達の解析を行なってきたが、より臨床的な病態に近い疼痛モデルとして、慢性的なストレスによって引き起こされ、下行性疼痛制御系の異常が関与する可能性が高い、全身の激しい痛みを伴う慢性疲労症候群や線維筋痛症などのモデルの使用を検討している。さらに、PAG-RVMシナプス伝達の解析を進める予定である。以上の実験により得られた結果を国際的に公表する。
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Research Products
(3 results)